迷宮探索も第二層にさしかかり、今回で二度目になる。この階層の何よりの特徴といえば毒気を吹き付けてくる化け物が現れたことだろう。活性剤は、使い捨ての注射器とセットで一本8,000円もするけれど前衛は一人につき二本、後衛は運動しないからより持ち運びやすいということで三本ずつ持って降りている。保険証を持っていったスキーでは決して事故に遭わないのと同じことなのか、今回も梅ジャム(前回俺が毒気にあてられた粘液状の化け物)との戦闘があったけど毒気にあてられる人は出なかった。
もう一つの違いはなんといっても敵方に魔法を使ってくるものが出てくることだ。単体相手に火の玉を飛ばす初歩の魔法や、治療術を裏返しで体力をそぐ術などを使ってくる相手が出てきた。爪や牙、銅剣の類であれば避けることもできるけれど、こういう術は予備動作らしいものがなくいきなり攻撃を負わされる。重症かどうかよりも、一瞬以上パニックになってしまう自分が怖い。
それでも、このフロアになってからはこれまで俺たち前衛の修行のために制限をかけていた葵が限定解除になったらしく、一階にいた時よりも倍以上の戦闘を行った。普段より多めに持っていったシェーカーはぎっしりである。計算するとなんと! 一日で八万円強だった。金銭感覚もおかしくなるな。半分以上を結婚資金口座に入れておいた。
夕方から、児島さん常盤くん、それと恩田さんの部隊の新しい戦士である西野さんと一緒に祇園にくりだした。お金が必要と公言しているバンドマン二人だったけど、さすがに今日の大漁には機嫌も良くなったらしい。いいことだ。四人で六万円ほど豪遊してしまった。二件目はラストの二時まで飲んでお店の女の子と一緒に祇園の端にある一銭洋食屋でネギ焼き? のようなものを食べる。その女の子が言うには、これがいまの祇園の遊び方なんだそうだ。
その後、ラーメンを食べる! とさらに南下していった二人と別れて西野さんと三条にあるバー『キャラメル・ママ』を訪れた。名前だけでぴんときた人は正解。ユーミンこと松任谷由美がまだ荒井由美だったころ、彼女のバックバンドを勤めたグループの名前を採ったこのお店は、ずーっとユーミンの曲が流れているバーなのだ。俺にとってはまさに聖地。そしてまさか迷宮街でユーミンファンと出会うとは思わなかったが、西野さんにとってもそうだったらしい。
西野さんは中庸の戦士で、身長は俺より低い一七三センチほどだろうか。しかし身体が大きく見えるのはとても発達した後背筋のおかげだった。どんなスポーツを? と訊いてみたらロッククライミングという意外な答えが返ってきた。プロになれるほどではなく、しかしずっと登りつづけていたい彼が目をつけたのが迷宮街だという。週三日の労働で十分暮らしていけるここに腰を据えて、休日は岩を登りに出かけるのだそうだ。
話を聞いていてとても面白そうだったので、今度連れて行ってもらうことにする。
四時の閉店まで店で粘り、タクシーで北へ北へと向かった。今日だけでいくら使ったろう? でもたまにはこういう日がないとね。