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探索者と仲良くするといいことがないと、織田彩(おりた あや)は過去の体験で知っている。人間はいつか死ぬもので、死んだらそれまでの付き合いの分だけ悲しくなってしまうもので、そして探索者は恐ろしく死亡率の高い職業だったからそれも当然のことだったろう。それでも、どうしても死ぬとは思えない相手もたまには存在した。アマゾネス軍団と呼ばれる女だらけの集団のリーダーである真城雪(ましろ ゆき)であったり、第一期の初日に合格してこれまで探索を続けてきた神足燎三(こうたり りょうぞう)であったり、共通するのは底知れない明るさだった。虚勢ではなく、生命力そのものが後光となって表情を、声を、動作すべてを輝かせているような気がする。
そして、目の前の大男もそうだった。津差龍一郎(つさ りゅういちろう)というその男について織田が得た情報のうち、名前よりも何よりもまず耳に入ってきたその身長は203センチあるという。いまだかつてこんな大きな人間を見たことがなかった。
一人で食べるのだろうか。いつもいつも弁当を二人分におにぎりを二つ、ポテトサラダ一つを買う男。まるで漫画でも見ているかのような現実離れしたたくましさは、常々織田が引いている線を忘れさせたのかもしれない。気が付いたら彼女は問い掛けていた。津差は視線を右下に向けて考え込んだ。
「…・…今泉、か。第二期募集の探索者で?」
そうです、とうなずく。彼女が「知り合いにいないか?」と訊いた名前は先日彼女の友人が呆然としてつぶやいたものだった。あれから考えて、ここで労働している人間ではないだろうという結論に達した。だとすれば探索者、それもいまだここに来て間もない第二期の探索者だと思ったのだが、彼女にはそれを探るつてがなかったまま気にしてすごしていたのだった。
「第二期といっても、試験を通っただけでももう300人は来ているからね。知っている方がめずらしいだろうね」
そうですか、とつぶやく。探索者だと思うんですけどね。ここで働いている人、結構お互いを知っていますから。そのつぶやきに津差はにっと笑った。大作りの顔に天然パーマが波打つと妙なアンバランスがあって可笑しい。
「そうは言っても昨日から北酒場のバーテンが増えたのを知っている?」
「いや、知りませんでした」
「そういうこと。なかなか新しい人に気づくものじゃないよ」
そうですね、とうなずく。津差はいたずらが成功した子供の顔になった。
「まあ、今泉なら心当たりがあるわけだが」
「…・…なんなんだこの人」
「友人の部隊に今泉博(いまいずみ ひろし)くんというのがこの間加入した。ものすごい美少年だって女たちが騒いでるよ」
「あ、それかも。…・…え? 美少年? 年齢は25〜6ではなく?」
「18歳って言っていたな」
「そうですか…・…あ、ええと、ありがとうございました。またお越しください」
失礼とすらいえる扱いに苦笑し、巨漢は去っていった。
27歳の女が呆然と名前をつぶやくのが18歳の男? パズルのピースがうまくはまらない。