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…・…もちろん彼の脳には記憶を整理するほどの能力はなかったが、それでも今の状況がおかしいということだけは感じていた。このくらいの日差しでこのくらいの暖かさの時にここまで全身が疲れているということはかつてなかったからだ。もともと明るい間はずっと寝ていてもいいと思う彼だったのに、落ち着くとそのたびに邪魔が現れ追い立てられるのだった。
ほら、あいつらだ。視界の端に入った生き物を見てうんざりする。この場所にはあいつらと同じような大きさと歩き方をする生き物がたくさんいたが、ぴりっとした緊張感を漂わせているやつらは彼を見つけるとなぜか駆け寄ってくるのだった。やれやれ、と思いながら身を起こして走り出した。ぴんと耳を立てた。
「チョボだ! チョーボー! おいでー!」
これは聞き覚えのある音だった。彼が通常ねぐらにしている場所を彼と共有している同居人であり、通れない場所を開閉する役目と排便の場所を掃除する役目、そしてしばしば食事の準備という大切な役目をその同居人には与えていた。もしかしたら、このうんざりする状況をなんとかしてくれるかもしれない。その音に向かって走ることにした。
同居人が前肢を彼に差し出している。普段よくするように、その顔の下に飛び掛った。爪を立てて皮膚(彼の毛皮とは違い、その皮膚は頑丈ではないらしくめまぐるしく生え変わっている)にしがみつくと、同居人は前肢で彼を支えた。収まりのよいように身体をずらしてから、奴らを視界の隅に置いた。同居人が奴らを抑えてくれるならよし、でなければまた逃げ出さないといけない。
奴らのいやな雰囲気が消えていった。ほう、と同居人を見直す気分だった。今後は邪魔者を排除する役目も任せられるかもしれない。よろしく頼むよ、という思いを込めてその頬をなめてやった。