星野由真

今日の女帝。 「まさかこんな下賎なところに住まうハメになるとは思わなかったわ」(わずかな着替えだけ持って木賃宿を見上げたセリフ) 今日は探索の日。とても危ない局面があった。何度目かの戦闘で死体食いといわれる小柄な生き物(骸骨やなにかと同じく…

 10:42

女性たちが一様に視線を泳がせしりごみしている。その顔にはありありとおびえが浮かんでいた。 であれば、とその輪の外側の男たちを見つめたが皆が視線をそらした。津差龍一郎(つさ りゅういちろう)はため息をついた。いくら慎重な俺でもこんな問題は予想…

 12:32

腹減った腹減ったと唱和しつつ示威部隊が地上に戻った。留守番役の太田憲(おおた けん)、落合香奈(おちあい かな)がお疲れ様と出迎え、ビニール袋の中から折り詰め弁当を取り出した。そして大きなお鍋。これは落合が北酒場のコックに頼んで作ってもらっ…

ふー。さあ、カレンダーにまたバツをつける日々が始まる。今度は三月九日。ゼミの女性陣の卒業旅行の前、由加里だけ関空出発にしてくれるとのこと。あと二ヶ月とちょっとだ。夕べ越谷さんに訊いたら鞍馬温泉までは自転車が簡単に通行できるくらいの雪だとい…

 7:42

高崎和美(たかさき かずみ)は階段の上に男の影を見つけて顔をこわばらせた。木賃宿と呼ばれる彼女の勤め先、三階部分は基本的に男子禁制なのだ。四階から上に行くために通る可能性は確かにあるが、男性はエレベーターを使用するように暗黙の了解ができあが…

 16:13

私もパレードいいですか? という娘の顔を見て津差龍一郎(つさ りゅういちろう)は怪訝に思った。そこにいたのは笠置町姉妹の妹だったからだ。色恋は不器用という印象の姉妹だったけれど、妹の葵はなんとか彼らの部隊の罠解除師と関係を築きつつあると思い…

 12:31

ドアを乱暴に開け、全員そろってる? と叫んだ。鍛え上げられた動体視力は返事よりも前にすべての人間の顔を勘定し、床に積み上げられたロープと金具も確認していた。葵ちゃんは? と笠置町翠(かさぎまち みどり)に双子の妹の所在を確認した。デートです、…

迷宮街の西半分のことなら今日一日でだいぶ詳しくなった。どうしてかというと、昨日の日記に書いたネコを探すために半日以上街を走り回ったからだ。結局誰も捕まえることはできず、しかし問題は無事解決した。星野さんの娘さん、星野由真(ゆま)ちゃんが通…

 15:33

…・…もちろん彼の脳には記憶を整理するほどの能力はなかったが、それでも今の状況がおかしいということだけは感じていた。このくらいの日差しでこのくらいの暖かさの時にここまで全身が疲れているということはかつてなかったからだ。もともと明るい間はずっと…