笠置町翠、絶不調。こともあろうに梅ジャムなんぞの不意打ちを食らっていた。彼女を包み込んだ梅ジャムに呆然とする俺だったが、青柳さんが慎重に中心細胞を破壊して二人がかりで掘り出した。引っ張り出してもしばらくはガタガタと震えて俺にしがみついていた。おでこに触ってみたものの、熱とかではなさそうだ。梅ジャムは呼吸器をふさぐ攻撃をしてくるから、かなりの量の粘液を飲んでしまっているようだった。念のため活性剤を打って毒気を消しておいて、しばし相談した。
葵に肩を抱かれあやされているうちに正気に戻った翠に続けられるかどうか訊いてみた。即答で「大丈夫」と帰ってきたが、数秒後にやっぱりダメかもと。今日はここまで、と決定したけど俺たちは実は安心していた。体調であれ、精神的なものであれ、少なくとも自分がダメなことがわかるくらいには回復したということだから。
午前中のうちに地上に戻った。翠からどこかに出かけようと小声で誘われた。承諾し、二人して京都駅の南側にあるスポーツクラブへ行ってみる。その場で入会しウェアを購入(金遣い荒くなってるなあ)し靴も買ってスカッシュのコートへ。頭がモヤモヤしているときは身体を動かした方がいい。球技は運動神経だけでなんとかなるものじゃないから俺に一日の長がある。たっぷり二時間ほど左右に揺さぶった。
それでかなりすっきりしたようで、おしゃれなところでお酒を飲もうというリクエストに同意したら洋服選びから始まった。俺も仕方なくジャケットとスラックスを購入する。そこで気が付いた。昨日、訓練場から見た翠はスカートをはいていたな、と。そんな彼女を見るのは東京以来だった。誰か親類に会いに行った東京以来。そして、昨日北酒場で見かけた男女。なんとなくパズルのピースがはまってきたような気がした。もちろん俺が知る必要はないけれど。
夕食はリーガロイヤルホテルのレストランでとった。迷宮街に戻りたくないと言う姿は子供のようで、仕方なくバーで酔いつぶした。そのままシングルを取って叩き込んでから、現在漫画喫茶の端末で記入中という次第だ。夜中に奴が起きたらまた呼び出されるのは明白だから飲み直しもできない。まあ、昔のジャンプコミックスを読めるからいいかな。