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科学技術ってすばらしい。
目の前で両側に開いていくガラスのドアを見て、三峰えりか(みつみね えりか)は感動のあまり泣きたい思いだった。昨夜はなかった筋肉痛は、今朝ベッドから身を起こすことすら難儀にさせていたのだ。こんなドア開けていられるものか。よろよろとスーパーの一角、薬局のコーナーに向かった。白衣を来たのっぽの女性がその歩みに苦笑しつつ眺めている。その顔に向かってなんでもいいから筋肉痛を和らげるものを! と頼むとまあちょっとお待ちよと奥に消えてしまった。
スーパーの一角とはいえ、ここでは迷宮街唯一の診療所で出された処方箋での薬の販売もしている。客を待たせるためにソファが並んでいた。そのうちの一つ、見知った顔を見つけて隣りに腰をかける。
「真壁くんこんにちは」
ソファに深く沈んでいた真壁啓一(まかべ けいいち)は薄目をあけて三峰を見やった。そして幾分ぐったりした表情でにっこりと笑う。風邪? と訊くとうなずいた。戻ってきた薬剤師が彼の前に薬の袋を差し出した。病人とは思えないキレで真壁は立ち上がるとそれを受け取り、頭を下げる。
「――けっこう熱があるらしいけど頭もはっきりしているみたいだからよく寝てりゃ心配ないさ」
何でもないような言葉にふーんとうなずいた。それよりも筋肉痛だ、と薬剤師に向き直った背中に真壁の声がかけられる。
「三峰さん合格おめでとうございます」
ぎょっとして振り向く。にこにこと祝福の笑顔がそこにあった。ついで、でもどうして探索者に? という質問がなされた。ありきたりなやり取りはしかし三峰を慌てさせた。
「嘉穂さんやばい! この子頭はっきりしてないよ! 昨日この会話したもん私!」
「え? そうなのかい?」
二人の視線を受けた病人がゆっくりと店内を去っていく。薬剤師はその背中にお待ちよ! と声をかけた。ゆっくりと真壁が戻ってくる様子を眺めながら、三峰は携帯電話を取り出した。
「ああん、真城さんは今もぐってるし、津差さんは番号知らないし、そっか、常盤くんが同じ部隊だね」
戻ってきた病人をソファに再び座らせる薬剤師を眺め、額に手を当てた彼女がぎょっとする様子を眺めながら呼び出し音を聞く。通話の向こうの声が今日もお手伝いできることありますか? と弾み、うん。至急手伝ってもらいたいことがあるのよと答えた。調査研究のお手伝いじゃないんだけどね。心の中で舌を出す。