新学期が始まったら一度近藤教授に会いに行くことを約束させられ、実家から帰ってきた。確かに近いうちに東京に遊びに行くのはいい考えだな。
北酒場に顔を出したら買取施設の技術者である三峰えりか(みつみね えりか)さんの探索者試験合格を祝うパーティーが開かれていた。さすがに男たちの華! だからたくさんの探索者が祝おうとつめかけたが、まるでタカラジェンヌを囲むお茶会か何かのように彼女の円卓を中心として、女帝が完璧に席を差配していた。ガサツで下心が見える人間ほど外に追いやられているみたい。定食を持って端っこの方に座って食べていたら常盤くんに釣り上げられる。常盤くんはすっかり酔っていた。とても嬉しかったみたいだ。
なんだか興奮してよくわからなかったみたいだけど、例の英語論争から彼女に心服してしまったらしい。それはもう仔犬が飼い主になつくようで、葵が不愉快にならなければいいけどと心配になってしまう。
どうして探索者に? と三峰さんに訊いたら研究のためだときっぱりとした答えが返ってきた。なんの研究ですかと訊いたら何でも! と。どうしてあんな化け物が大量にいてこれまで見つけられなかったのか、どのような生態でどのような社会を営んでいるのかから始まって各個の化学成分のさらなる利用方法まで。ありとあらゆる知的好奇心が彼女を呼んでいるとうっとりと語った。正直よくわからない。目指す職業は魔法使いで、魔法使いといえばこの人である魔女姫高田まり子(たかだ まりこ)さんを隣りに捕まえて予行演習に忙しかった。
高田さんが簡単に書いたスケッチ、それを思い浮かべてもらって素質をチェックした。訓練場のような特殊な場所でもなければ極端な変化は現れないものだけど、高田さんには肌に触れれば十分わかるらしい。最初、数秒して言いにくそうにあなたには素質がないみたいと判定をくだした。
三峰さんは却って喜んでしまった。そして高田さんを放さずにしきりに今は? じゃあコレでは? と訊いている。同じ円卓の人間がそろそろ飽きはじめた頃に高田さんが驚いたように「うまくできてる」とつぶやいた。
その後はすごかった。普通なら難しいイメージをすべて簡単にこなしてしまった。伝説に残る魔女姫の試験のようにその反応の強度が大きいわけではないけれど、正確に脳裏に像を描く反射速度は大変なものがあると高田さんのお墨付きが出た。やっぱり頭のいい人は何か違うのだろう。