昨日のせっかくの決意にもかかわらず今日は観光できず地下に潜っていた。いやいや、探索者の本分は探索であるからにはしょうがないのだけど。
「辞めるよ」といってからなんだかお客様になってしまったのかな? 今日は手加減されていたような気がする。敵に。それとも一度第四層で緊張の緩め方(罠解除師の信頼の仕方)を掴んだからだろうか、通常時と戦闘時の切り分けがより上手にできたようで疲労が少なく済んだ。
探索終わった詰め所で進藤くんの部隊と鉢合わせた。第三層の俺たちと第二層(今日かららしい)の彼らとが帰りで一緒になるなんて珍しいと思ったら、調子がよかったので第二層をひとしきり回ってからさらにエディの訓練場にいたらしい。熱心だこと。調子が良かったという言葉にあれ? と思った海老沼さんだけど、今日はへこたれていないようで倉持ひばり(くらもち ひばり)さんと上機嫌でお話をしていた。腰には短めの鉄剣が二本。二刀流かあ。かっこいいな。
地上に出てATMの数字を久しぶりに確認してぎょっとした。思っていたよりも結構多い。これなら、次に何かはじめるまで食べていけそうだ。父親は実家に戻って来いと言っているけれど、実家のあたりでは探している職はなさそう。父親がツテでいろいろなところに声をかけてくれているけれど、やりたいこと自体がニッチだからなあ。俺自身に実績があるわけでもないし。しばらくはプーでもいいかと考えている。いや卒論書くのもいいか。
木賃宿に戻ったら張り紙が出ていた。買い取り価格変更の賛否を問う投票を行うので、来週火曜日までに事務棟に来いとのお達しだった。案の定北酒場では真城さんが古参探索者のうち損をすることが確定している人たちの説得を続けていた。越谷さんが亡くなって誰も女帝を止められない、と一瞬心配したけれどこの人はそれ以来大変な自制心で暴発を抑えている。その姿勢が少しずつくすぶっていた探索者たちにやる気を起こさせているような気がする。でも喜んでいいのかどうかわからない。だって、やる気を起こして下層に下りるというのは死の危険が増すことだから。
ああ、辞めるという決定をした時点で俺はもう探索者じゃなくなったのかもしれない。