越谷健二

昨日のせっかくの決意にもかかわらず今日は観光できず地下に潜っていた。いやいや、探索者の本分は探索であるからにはしょうがないのだけど。 「辞めるよ」といってからなんだかお客様になってしまったのかな? 今日は手加減されていたような気がする。敵に…

 06:13

遠ざかる背中に何も言えずに見送ってから、殴られた頬に手を当てた。痛みはなかったが、それ以上に罪悪感が心を蝕んでいた。 「いやあ、珍しいもの見せてもらったよ」 真壁啓一(まかべ けいいち)はぎょっとして周囲を眺め渡した。誰もいない。視線を下げる…

 18:03

トン、トンとキーボードの端を指で叩いている。この椅子に座ってから一五分、いつもなら一日分の日記を書き終えて席を立っている頃だ。しかし今日は一文字も書くことができずにいた。大きく伸びをして、真壁啓一(まかべ けいいち)は視界の隅に立っている人…

 16:23

この数日は菜食だけで過ごし日々の半ばを瞑想に費やしている。高度の精神集中の末に研ぎ澄まされた心身には熱と活気が渦巻く鍛冶場は辛かった。今日の分の集中がこれで台無しだろう。理事はいい顔はしないはずだった。それでも外出したのはあるの男性の様子…

 19:07

その衝撃よりもその音が、その音よりもその光景がもたらす驚きが北酒場をしんと静まり返らせた。まさか――。皿を運ぶもの、酒をつくるもの、食事をするもの、ジョッキを傾けるもの、その場にいる全てが一様に同じ思いを抱き目を疑ったはずだ。まさか、真城雪…

 23:27

真壁啓一(まかべ けいいち)が怪訝そうに声を上げた。 「あれ? 真城さんのヒョウ柄って地下用ですよね? カラビナついてるし」 両手をあけながら大量の食料や救急用品などを持ち歩かなければならない地下行動時に使用するツナギには、円形のカラビナと呼ば…

 06:10

「・・・何事よいったいこんな時間に」 『俺は今日もぐるけど、俺がいない間も説得を続ける気か?』 「あたりまえじゃない。時間は惜しいのよ」 『止めても無駄か――じゃあ、一つだけ約束してくれ』 「なに? できることならするけど」 『くすぶってる奴らに…

今日も晴れ。訓練場では海老沼洋子(えびぬま ようこ)さんに稽古をつけてあげる。この子は身長一六五センチということで重量も筋力も(戦士としてやっていくなら)絶望的に足りない。というより問題はそれ以前。剣筋は悪くないと思うし視野も広いと思うのだ…

 16:13

階段を下りてゆくと好きな俳優の声が聞こえてきた。木賃宿の二階と三階は二段ベッドが並ぶモルグと呼ばれるフロアだった。どちらにもテレビが設置されており、常に何かしらの番組が映し出されている。いつも可笑しく思うのは、ここでもまたほとんどの時間は…

昨日は夕方からずっと雨でどうなることかと思ったけれど、今日はいい天気! こんなことなら黒田さんたちとご来迎を拝みに行けばよかった。それでも木賃宿の屋上から眺める朝もやの京都市街は非常にきれいだった。洗濯物も乾きそうだし。 本日もまた示威部隊…

ふー。さあ、カレンダーにまたバツをつける日々が始まる。今度は三月九日。ゼミの女性陣の卒業旅行の前、由加里だけ関空出発にしてくれるとのこと。あと二ヶ月とちょっとだ。夕べ越谷さんに訊いたら鞍馬温泉までは自転車が簡単に通行できるくらいの雪だとい…

 20:32

「あ、また転んだ」 北酒場には時ならぬ特設リングが出来上がっていた。その中央で行われている見世物を眺めながら落合香奈(おちあい かな)は呟いた。派手な音と一緒に歓声が沸きあがる。いま転んだのは高田まり子(たかだ まりこ)の部隊の前衛で、神足燎…

『ノーモアクリスマス!』 パレードは首謀者の真城さんが突然「いやホントごめん! マジで! あとよろしく!」と言いながら裏切ったものの、参加人数24人と犬3匹という立派な成果をあげた。馬鹿ばっかりだ、この街。先頭は真城さんに選んでもらった高級服に…

翠の一言にドキッとさせられる。 最近北酒場でよく噂されているのよねーとのことだった。この娘は生まれか家庭環境かわからないけれど非常に耳がいい。しかも入ってきたもの全てにとりあえず気を配っているらしく、離れたテーブルの会話などを突然耳打ちして…

 12:31

ドアを乱暴に開け、全員そろってる? と叫んだ。鍛え上げられた動体視力は返事よりも前にすべての人間の顔を勘定し、床に積み上げられたロープと金具も確認していた。葵ちゃんは? と笠置町翠(かさぎまち みどり)に双子の妹の所在を確認した。デートです、…

寒い! 朝方の気温はすでに三度ほどだ。最近は朝六時に起きるようにしている。この時間なら必ずモルグでは誰かしらの目覚ましが鳴る。これまでは舌打ちしながら二度寝していたけど、それよりは起きてしまってトレーニングを早めに終えたほうがいいと最近気づ…

迷宮街だけではなく地下までもクリスマスに突入。 何かというと、葵のツナギが「クリスマスバージョン」になっていた。ベースを赤に、フードのふち、袖、足首、ウェストラインが白いというもの。書き忘れていたけどツナギの色は基本料金で各人自由に選べる。…

 10:31

探索者の戦士たちも第四層に降りるあたりになると、各人の個性や優劣が出はじめると彼らは言っている。いわく、星野幸樹(ほしの こうき)は突き技に長け、真城雪(ましろ ゆき)は鉄剣の重量と遠心力を利用する跳躍戦法のが巧みで、野村悠樹(のむら ゆうき…

早くから大変ですね! と言われた。小林さんにだ。なんだかすごく元気で快活だ。宝くじでも当たったのかな。 今日も今日とて第二層の探索を続けている。今日の俺の目標は「目指せ青柳誠真(あおやぎ せいしん)」だった。以前書いたけど、青柳さんの強さとい…

 16:20

四時を過ぎると今日の探索を終えた連中が使用した武器防具が運び込まれてくる。現場のチーフである片岡宗一(かたおか そういち)にとっては一番あわただしい時間帯だった。ひとつずつの状態を見極め、誰なら任せられるかを考え、てきぱきと割り振っていく。…

 13:56

かぶとの類を身につけている相手には決して大上段で切りかかってはいけない。かぶとは衝撃を受けとめるためではなく流すために作られている防具であり、振りおろした剣が逸らされたら一秒は無防備になってしまうから。訓練場の橋本辰(はしもと たつ)に何度…

 13:20

「こういうものがあるなんて想像もしませんでしたね」 鹿島詩穂(かしま しほ)はさすがに魔法使いの訓練責任者だけのことはあり、高田まり子(たかだ まりこ)に差し出された石片をつかんだだけでそれがどういうものなのかを理解したようだった。 「まりは…

20:05

「こっしー! 止まれ!」 高田まり子(たかだ まりこ)は反射的に叫んでいた。迷宮街の大通り、北酒場に向かう歩道の上だった。声をかけた相手は越谷健二(こしがや けんじ)という名前の探索者である。高田と同じく第一期から探索を続けている彼は、いまで…

どんよりとした曇りの一日。津差さんと訓練をして過ごした。津差さんたちは本当は今日もぐるつもりだったのだけど、彼らの治療術師の的場さんという方が体調不良になってしまったということだった。神崎さんの死にショックを受けていたのだという。真城さん…

誰も泣かなかった。それが一番の驚きだった。探索者の中には神崎さんと男女の仲だった人もいるはずなのに。 神崎さんの部隊が全滅した。今日はじめて第二層に挑み、そこで何かにやられた。ちょうど地上への電話機が設置されているあたりで敵に襲われたらしく…

天気は曇りだったけど、なんとなく暖かくなる感じがしたので洗濯物を干した。ちなみに洗濯物は木賃宿に併設されているコインランドリーで洗濯するか、木賃宿のクリーニングに出すかを選べる。金銭感覚が麻痺してきたと昨日の日記に書いたけど、日々の支出に…

迷宮街の西半分のことなら今日一日でだいぶ詳しくなった。どうしてかというと、昨日の日記に書いたネコを探すために半日以上街を走り回ったからだ。結局誰も捕まえることはできず、しかし問題は無事解決した。星野さんの娘さん、星野由真(ゆま)ちゃんが通…

 13:25

この二日間で屈辱とともに思い知ったのは、人間はついに追いかけっこでネコに勝てないという事実だった。だから、久米錬心(くめ れんしん)からの電話で迷宮街の南外周部にたどりつき、ベンチに座り本を読む神田絵美(かんだ えみ)とその隣りでおとなしく…

迷宮街の夜は早い。朝五時まで営業の居酒屋などやっていないから、夜遅くに目がさめてしまった俺は唯一のコンビニであるミニストップ迷宮街支店まで出かけていった。全国チェーンのコンビニにはいろいろ種類があるし、販売実績ではもっと上位のものもあった…

打撃力★★★★☆ 防御力★★★★☆ 動作速度★★★★☆ 入力への反射速度★★★★☆ 体力★★★★☆ 気力★★★★★ 投げ技 なし 前の動作時に次の動作の入力ができる 最大5動作までで、それをタイムラグなしで再生する(キャンセルも可能) 衣装 ツナギ(人体の筋肉図)/ツナギ(シマウ…