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昨日から全てが信じられないことばかりだった。場所に限定して発生する、自分の手のひらも見えなくなってしまうような白い霧、それが一つの地帯だけにわだかまって動かないこと。噂では聞いたけれど、本当に人間以外の二足歩行の化け物が剣を持って襲い掛かってくること。それを眉一つ動かさず切り捨てる人間がいること。自分たちでは何人がかりでも持ち込めない重量になっている機材箱をたった一人が担いでくること。北酒場という居酒屋でオススメの料理を教えてくれた青年が、その二時間後には死んでしまったということ。中年女性が「いきますよ」と言った瞬間に周囲の風景が豹変したこと(瞬間移動だという!)、自衛隊員が一般人の指示に従って作業用ライトの設置を行うこと。そして今、自分たちの耳に間断なく鉄と鉄がぶつかり合い苦痛と怒りと絶望を含んだ悲鳴が聞こえてくるこの状況。全てが信じられないことばかりだった。いや、ちがう。信じたくないのだ。もういい。早くこの場所から出て行きたい。でないと頭がおかしくなりそうだ。明後日は作業予備日? 勘弁してくれ。今日中にでも終わらせてやる。
誰も私語を交わさず妙に作業効率がいいのは全員そう思っているからかもしれない。