2004-01-24から1日間の記事一覧

無事生還。無事生還。 無事生還。 薄情なようだけど、自分がいま生きてこれを書いているというのが何よりも嬉しい。 今日は朝九時から準備ならびに警備を開始し、一四時半で第二層と第三層の工事がすべて終わるまで地下で戦っていた。予定では今日の作業はタ…

 19:42

箪笥の上には二つの写真立て。両方ともに自分は映っているが、ともにいる人間が違っていた。一つには、一人の男性と男の子そして自分。一つには、一人の男性と自分。 片方はかなり前に伏せられ今ではうっすらとほこりが積もっている(それはちょっと掃除をサ…

 13:37

もとの皮膚の色がどうだったのかわからない。しかし六人で見下ろすその化け物の肌は、明らかに不自然な紫色をしていた。禁術の産んだ死の不健康な何かに満たされたその身体はしかしまだ息があり、ずるずると奥へと這っていく。 「なんだかかわいそう」 笠置…

 13:36

先陣を切って走り出した背中を追った。あくまで冷静に、いい奴らだな、と気分が昂揚した。こいつら――大きな男は違うらしいが――だったら可愛い従妹たち(意識の中では妹だったが)を任せて安心だ。激戦を数秒後に控えてなおその心は落ち着いている。眼前にい…

 13:36

葵! と先頭左翼を走る真壁啓一(まかべ けいいち)から声がかかった。俺を援護しろ! 二人はいい! 背中にべっとりと汗をかく緊張と恐怖の中で改めて、すごい人だと感嘆した。先陣をきって走りながらも自分が一番弱いことを簡単に認め、自分は全員が生きる…

 13:36

児島貴(こじま たかし)がたった一つ欠かさない訓練がある。それは山中で地面を見ないように走ることだった。山に慣れれば足の裏にも目ができる、とある登山を趣味とする探索者に教えられて以来無理を承知でやっている訓練だった。全職種共通で必要なことだ…

 13:35

ゴンドラはひっきりなしに上下動を行っていた。積めるだけの作業員を積み込んだカボチャの馬車は最上層に行き、そこでは五人を二部隊で守る体制ができている。作業員の数は残り10名。一人減るごとに星野幸樹(ほしの こうき)は肩の荷が下りていくのを感じて…

 13:35

たぶんビンゴですよ水上さん。作業員たちがプロの面目躍如であっという間に広げて二人ずつなら通れるようになった空間に入り込んですぐ、常盤浩介(ときわ こうすけ)が言った言葉だった。壁を抜けたそこはかなり広くまっすぐに東に向かっている。ヘッドライ…

 13:25

お前のそれいいなあ、と呟いた声は低く小さかったために津差龍一郎(つさ りゅういちろう)はまず自分の正気を疑った。化け物たちはさすがに力押しの愚を悟ったか今では50メートルほど離れた個所で陣を敷き、しきりに威嚇の声をあげている。それは絶えること…

 13:06

ちょっと、ごめん。呼ばれてやってきた南沢浩太(みなみさわ こうた)はそう断ると床の上に大の字になった。たちまちのうちにいびきをかき始める。その姿に真壁啓一(まかべ けいいち)は自然と頭を下げた。自分が無茶を言っていることがわかったからだ。 大…

 13:00

完成! 嬉しそうな声に、油断なく濃霧地帯に置いていた視線を後ろにやった。事業団理事で優れた魔女である笠置町茜(かさぎまち あかね)が設置なったゴンドラの中で笑っている。すでに第一層の工事は終わっており、その場には進藤典範(しんどう のりひろ)…

 12:59

熱意に満ちた顔が再び意見を上げに来た。この男は、とその正義感は好ましく思いながらも苛立ちを抑えられない。星野幸樹(ほしの こうき)は部下にあたるその士官を睨んだ。 「俺たちにも防衛に加わる許可をください!」 やかましい、と取り付く島なく無視す…

 11:04

一体何匹いるのか。数度の突撃を受け止め跳ね返し、疲労で朦朧としている頭で思った。隣りでやはり肩で息をしている笠置町翠(かさぎまち みどり)が「ちょっとごめんなさい! 休ませて!」 と叫んだ。俺もそろそろ休むか。しかし理事の娘が抜けて弱体化する…

 09:42

間断なく化け物たちは押し寄せてくるが通路の広さには限界がある。三部隊九人の戦士が並ぶと二〇mあまりの通路を全てふさぐことができた。陣形としては前衛で防ぐもの、傷ついたら交代するもの、さらに予備として九部隊二七人の戦士たちが順番に戦闘し、タイ…

 09:24

昨日から全てが信じられないことばかりだった。場所に限定して発生する、自分の手のひらも見えなくなってしまうような白い霧、それが一つの地帯だけにわだかまって動かないこと。噂では聞いたけれど、本当に人間以外の二足歩行の化け物が剣を持って襲い掛か…

 07:08

葵ちゃん! と嬉しそうな声がして真壁啓一(まかべ けいいち)はそちらを見やった。そこにはそろそろ壮年を過ぎようかという男性が一人立っていた。笠置町葵(かさぎまち あおい)に向かって笑顔を向け久しぶりだなあ、大きくなってと肩を叩いている。葵もそ…

 06:53

仲間の死には慣れている。地下は自分たちにとってあまりに過酷であり世の中には運不運というものが歴然としてあるからだ。しかし安置室に並んだ三つの屍を前にして津差龍一郎(つさ りゅういちろう)はやるせない思いを抑えられなかった。理由はいろいろあっ…

 06:42

秋谷佳宗(あきたに よしむね)の戦いぶりをさして「踊りのよう」と表現する連中は、当然彼のもう一つの顔を知っているからそういうのだろう。しかしそれを差し引いたとしても背筋が常に伸びて安定した下半身の動きは優雅な印象を見るものに与えた。しかしそ…