普段から小さいその身体はさらに縮こまっている。電話の相手は商社の買取責任者だから、その社員でもある三峰えりか(みつみね えりか)にとっては上司にあたった。そして何より、鯉沼今日子(こいぬま きょうこ)も顔を見かけたことがあるが並みの上司という生き物よりもはるかに威圧感に満ちた顔だった。
「はい、すみません。はい、はい。・・・はい、気をつけます。はい、・・・ありがとうございました」
携帯電話を切ってふうと息をつく。しょんぼりした肩を、いたわりをこめて見やった。
「非番の日にまでお疲れ様。なにかミスしたの?」
いいえ、と若い研究者は首を振る。このイベントのことで怒られちゃいました。その言葉に鯉沼の顔が険しくなった。自分たちが訓練の一環としてなにをしようと商社には関係ないはずだ。それも、三峰は首謀者ですらない。どんな理由と正当性があってあの男はこんな小さな娘を怒るのか。一体何様のつもりなのだろう。事情を問いただそうと開いた口がそのまま止まったのは続いた言葉を聞いたからだ。
「せっかくそんなことやるんだったら、うちからなんでも賞品持っていけって」
あ、あら、そう、と気の抜けたような鯉沼の言葉。それはそれで何を考えているのかわからない。