2003-10-01から1日間の記事一覧

おつかれ、と渡されたタオルを受け取ったものの黒田聡(くろだ さとし)は汗一つかいていない。同じく第一期の戦士だったものの、いまだ第二層でくすぶっている相手ではもう大きな差が開いていた。ついでジュースを受け取りながら、高田まり子(たかだ まり…

目の前の男の日記は読んだことがある。自分はまったく登場しないから(訓練場でも早朝派の彼と夜型の自分とでは出会ったことがなかった)検閲のつもりはなかったが、読んでいて一つ印象に残ったことがあった。その観察力の確かさだ。この街で生死の際に身を…

「はーいお次はー!」 拡声器の声が会場の喧騒を圧した。しん、と場内が静まる。 「Aグループで真壁啓一(まかべ けいいち) V.S. 小笠原幹夫(おがさわら みきお)の試合ですよー! 注目、注目ー!」 突然のそのアナウンスに真壁は立ちすくんだ。今までこん…

田中元康(たなか もとやす)はこの街に来てまだ二週間の戦士でしかない。実戦の経験も街での知名度も明らかに低いことはわかっていたがこのトーナメントに参加したのはやれると思ったからだ。相手を絶命させることを目的とする地下の戦闘ならばともかく、相…

離れた床で柔軟をしていると、視界に見なれたブーツが入った。顔を挙げると仲間の女戦士である笠置町翠(かさぎまち みどり)が見下ろしている。当然のようにツナギに身を包んでやる気十分だった。 「真壁さん、聞いた? 賞品がつくって」 「へええ。どんな…

普段から小さいその身体はさらに縮こまっている。電話の相手は商社の買取責任者だから、その社員でもある三峰えりか(みつみね えりか)にとっては上司にあたった。そして何より、鯉沼今日子(こいぬま きょうこ)も顔を見かけたことがあるが並みの上司とい…

トーナメントを書き出した模造紙の前で進藤典範(しんどう のりひろ)は立ちすくんだ。寸前まで楽観視していた。訓練場では自分はそれなりだと理解している。優勝はもちろんムリでも組み合わせ次第なら二回戦くらいまで進めるのではないか? そう思っていた…

ゆっくりと上げた脚、かかとが天に向いた。片足は大地に、片足は天にと伸ばされた黒田聡(くろだ さとし)の身体はまるで一本の棒のようにも見える。精鋭四部隊の中では『地下限定で』最強の戦士と呼ばれていた黒田だったが実際の身体能力は垂直に上げた脚が…