高田まり子(たかだ まりこ)は困っていた。アナウンス嬢(嬢?)を引き受けたもののこの『覆面戦士X』の扱いはどうしたものかと。相手が自分の部隊の戦士で迷宮街でも屈指の一人である黒田聡(くろだ さとし)である以上、視野の狭いお面はもう付けていられないだろう。であればその正体を明らかにする儀式が必要なのだが、もしかしてそれは自分が「おおっと! 仮面の下から現れたその素顔は!?」とかアナウンスするということなのだろうか。それは絶対に自分ではムリだ。新入社員だったとき、セーラー服を着て踊らされるそれだけで恥ずかしくなって社員連中の前で足をもつれさせて転んだ(そしてスカートがめくりあがった。だから結果的には大成功だった)経歴は伊達じゃない。名前を読むだけならともかく、アドリブなんか絶対にしらける。まずい。
おぼれるものはわらをも掴む。のこのこと訪れた一本目のわらはひょっとこのお面をかぶっていた。
「ねえ秀美ちゃーん」 甘えたような声で手を伸ばす。
(痛い!)
感電したような感覚。しかし電流が空中を走っているはずもなくもちろん単なる錯覚だった。しかしどこからそれはもたらされた? それともまさか、彼女のまわりの空気が本当に変質しているとでもいうのか? 心を落ち着け、再び手を近づけると、ある程度で必ず指先にしびれたような悪寒を感じるのだった。土嚢の段差に腰掛け、上体をだらりと下げて額を膝に乗せた脱力した姿勢だが恐ろしいほどの集中を見て取れた。このサラブレッドにしてもうちの黒田の相手は油断ならないのねと少し嬉しく思う。とりあえず声をかけるのは断念した。声をかけたらひどい目にあわされる気がしたからだ。
で、私はどうすればいいのよ? 泣きたい。