二本目のわらは相手をしてくれた。どうしたらいいかな? という言葉に黒田聡(くろだ さとし)は一瞬の虚を突かれた表情の後に苦笑をもらした。そうだなあ、確かにあの子が振ったネタだからあの子がケリをつけないといけないんだけど――なに? 鈴木さん余裕ないんですか?
手の痺れを思い出しながらうなずく。びりびりくるくらい張り詰めてるよ、あの辺り。視線を試合場の向かいに送ると未だお面をつけたままの鈴木秀美(すずき ひでみ)は相変わらず両膝に額を預けた姿勢で微動だにしない。そしてその周り1mくらい誰も近寄らない空間ができあがっていた。と、二人が見守る中で立ち上がった。そして――おそらく初めて目を開いて気づいたのだろうか――わずらわしそうにお面を外して捨てた。二人は顔を見合わせる。
「取っちゃったよ」「取っちゃいましたね」「若いってすごいね」「まったくです」
ともあれ、本人がネタを放り投げたのならわざわざ外野が盛り上げることもない。高田まり子(たかだ まりこ)はアナウンス席に駆け戻った。
『それではただいまよりBグループ第二試合を開始します。赤、黒田聡。白、覆面戦士Xに代わり、代打鈴木秀美
おおおと会場がどよめいた。ほっとしながらもなあんだと思う。正体はもう明らかだったし、会場の人間は『地下限定最強戦士』と『美少女天才剣士』の戦いにしか興味なかったのね。焦って損した。
現金なもので、ほっとすると最後の手段として考えていた口上を披露したかったなという気分になるのだった。