高田まり子

これが最後の日記になる。一一月一日から始まって、途中書いてない日があるとはいえ三ヶ月。自分の中でも日記をつけた最長記録だ。いろいろ勉強になった。書いておく、っていうのは頭を整理するためにいいな。この街を出ても、当然ウェブじゃないとしても日…

出稽古シリーズ第二弾は笠置町翠(かさぎまち みどり)。感想は 「やっぱり他の仲間が頼れると楽だね!」 くっそー菓子折りか? 菓子折りでも持っていけばいいのか? 昼前からは雨が降ったけれどどんよりと曇りの朝。いつもどおりにジョギングに出たら、久し…

津差龍一郎(つさ りゅういちろう)重体。今もまだ自分の部屋で寝ているはずだ。 第二期の有望な探索者が精鋭四部隊に出稽古に行くという企て、今日は津差さんが先発隊として出ることになった。出稽古先は魔女姫高田まり子(たかだ まりこ)さんの部隊で、こ…

 12:23

もともと地下の温度は低く零度に近い。それでも、のっぺらぼうと呼ばれるその化け物が現れるとさらに二〜三度涼しくなるような気がした。こいつは地上に持っていったらクーラー代わりにならんかしらね、といつもどおりにのんびりと考えて、高田まり子(たか…

 19:32

「だいぶお疲れじゃありませんか?」 高田まり子(たかだ まりこ)の気づかう声に後藤誠司(ごとう せいじ)は首を傾げたが、同席の三人はうなずいた。相変わらずの酷薄な人相、なんとか和らげようという努力がほほえましい顔は相変わらずだったけれど、北酒…

新学期が始まったら一度近藤教授に会いに行くことを約束させられ、実家から帰ってきた。確かに近いうちに東京に遊びに行くのはいい考えだな。 北酒場に顔を出したら買取施設の技術者である三峰えりか(みつみね えりか)さんの探索者試験合格を祝うパーティ…

 07:03

準備はよろしいですか? と高田まり子(たかだ まりこ)は仲間たちを見回した。うなずく顔ぶれは一様に緊張している。もし少しだけ事情を知っているものがいたら奇異に思ったことだろう。彼女が『魔女姫』という異名を奉られる探索者中最高の魔法使いであり…

 12:32

腹減った腹減ったと唱和しつつ示威部隊が地上に戻った。留守番役の太田憲(おおた けん)、落合香奈(おちあい かな)がお疲れ様と出迎え、ビニール袋の中から折り詰め弁当を取り出した。そして大きなお鍋。これは落合が北酒場のコックに頼んで作ってもらっ…

 21:40

知り合いが宴会でもしていないかな、と思って円テーブルのスペースを訪ねた。予想通りに「真壁!」と声がする。真城雪(ましろ ゆき)がジョッキを掲げて呼び寄せていた。珍しいことに同席しているのは普段の仲間たちではない。現時点で第四層に到達している…

星野幸樹 様 高田まり子 様 真城雪 様 湯浅貴晴 様 おはようございます。桐原@東京です。東京は今日はどんよりと曇っています。午後からは晴れるらしいのですが、気温のほうはいよいよ冬本番という印象です。京都はいかがですか? さて本題ですが、昨日夜、…

 13:20

「こういうものがあるなんて想像もしませんでしたね」 鹿島詩穂(かしま しほ)はさすがに魔法使いの訓練責任者だけのことはあり、高田まり子(たかだ まりこ)に差し出された石片をつかんだだけでそれがどういうものなのかを理解したようだった。 「まりは…

20:05

「こっしー! 止まれ!」 高田まり子(たかだ まりこ)は反射的に叫んでいた。迷宮街の大通り、北酒場に向かう歩道の上だった。声をかけた相手は越谷健二(こしがや けんじ)という名前の探索者である。高田と同じく第一期から探索を続けている彼は、いまで…

 14:35

目がくらむ。 高田まり子は迷宮街に初めてやってきた頃を思い返していた。京都市街に発生した大迷宮に関する探索/防衛の一切を委任する組織として迷宮探索事業団が設立されたとき、彼女は特筆すべき点もないOLとして日々を暮らしていた。実直で落ち着ける恋…

 14:10

「星野二尉!」 階級つきで呼びかけられてほんの少し戸惑った。地上の詰所ならともかく、このなめらかな岩壁に囲まれたひんやりした空間でそう呼ばれることは最近少なかったからだ。 ここは迷宮第四層。現在のところ、探索者たちが到達している最深部にあた…

「・・・黒田くん」 その声だけを聞いた者がいたとする。そしてその人間が本日この街で剣術トーナメントが行われたとだけ知ったとする。それでも絶対に、その誰かはトーナメントの準優勝者とドアの向こうからもれてくる声の主を一致はさせるまい。黒田聡(く…

礼を終えて振り向いた黒田聡(くろだ さとし)の身体が揺れた。ああ、音ってのは空気の振動なのだなと実感させてくれるほどの拍手と喝采が自分と国村光(くにむら ひかる)に向けて降り注がれている。左肩の付け根はずきずきと痛んだけれど、自由になる右腕…

小声で名前を呼ばれ、黒田聡(くろだ さとし)は薄目を開いた。それだけの動きでこめかみが鋭く痛んだが、顔をしかめたことを察したのだろうか? 見下ろす人影の表情が曇ったことに気づくとあわてて笑顔を浮かべた。気のせいかもしれないが、顔を笑顔に保て…

「まさにペテン師の面目躍如ってところね」 疲れた、と言い残してとっとと横になってしまった神足燎三(こうたり りょうぞう)の代わりに二戦士の仲間たちが片付けをしているところだった。高田まり子(たかだ まりこ)は土嚢を一つどけてしみじみとそう呟い…

「おつかれさまですー、ってドア開けっ放しでいいんですか?」 それどころか窓まで全開じゃないか。 訓練場の一角、魔法使いの教官である鹿島智子(かしま ともこ)の部屋は室外と同じ冷気に満たされているようだった。京都の冬は厳しい。 「ああいいのいい…

罠解除師である若林暁(わかばやし さとる)は――当然というべきなのだが――戦士たちの実力の差というものがわからない。この剣術トーナメント、自分の部隊の前衛は3人ともがベスト8に残っている。喜ぶべきその事態はしかし意外らしい。目の前の神足燎三(こう…

みんなの視線が痛い気がする。ここから出て行きたい。あとは自分のアナウンスだけ、という状態で皆が自分を待っている。わかっている。自分はこの紙を読み上げなければならない。自分に責任はない。でも、くそう、おのれ、あの男。 『次のカードに先立ちまし…

二本目のわらは相手をしてくれた。どうしたらいいかな? という言葉に黒田聡(くろだ さとし)は一瞬の虚を突かれた表情の後に苦笑をもらした。そうだなあ、確かにあの子が振ったネタだからあの子がケリをつけないといけないんだけど――なに? 鈴木さん余裕な…

高田まり子(たかだ まりこ)は困っていた。アナウンス嬢(嬢?)を引き受けたもののこの『覆面戦士X』の扱いはどうしたものかと。相手が自分の部隊の戦士で迷宮街でも屈指の一人である黒田聡(くろだ さとし)である以上、視野の狭いお面はもう付けていら…

おつかれ、と渡されたタオルを受け取ったものの黒田聡(くろだ さとし)は汗一つかいていない。同じく第一期の戦士だったものの、いまだ第二層でくすぶっている相手ではもう大きな差が開いていた。ついでジュースを受け取りながら、高田まり子(たかだ まり…