鈴木秀美

ユッコにアキ、元気ですか。夢にまで見ただろう秀美さんです。とまあ、先週会ってるんだからありがたみも50%増しくらいかな?(増えるのかよ) あの日なんだけど、迷宮街に帰ったら雪ふってたよ。もうなんというか、私みたいな女にはこの街はつらすぎると思…

 10:25

左右からほぼ同時に斬りこみが送られてくる。真城雪(ましろ ゆき)はふーん、と感心しながらも余裕を持って両方とも弾き飛ばした。そして軽い前蹴りをみぞおちに叩き込む。うずくまって下がった頭を左手の裏拳で払い、がらあきになった首筋にそっと切っ先を…

 11:25

敵は手加減してくれないのにどうして教官が手加減しなければならん? 父親の口癖だった。だからその教えを叩き込まれた鈴木秀美(すずき ひでみ)もまた、訓練場では一切の手加減をするつもりはなかったし、戦乱の世の中でもなし、他に職はいくらでもあるこ…

今日も晴れ。訓練場では海老沼洋子(えびぬま ようこ)さんに稽古をつけてあげる。この子は身長一六五センチということで重量も筋力も(戦士としてやっていくなら)絶望的に足りない。というより問題はそれ以前。剣筋は悪くないと思うし視野も広いと思うのだ…

ユッコにアキ、元気ですか? お久しぶりの姫です。 なんか心配かけちゃったみたいだね。兄貴が来たときにはびっくりしたよ。 連絡しなかったのはごめんなさい。ちょっといろいろあって、気持ちの整理がつきませんでした。 今も・・・まあカラ元気も元気って…

今日はパトロールの日なので早めに書く。今日から津差さん部隊の佐藤良輔(さとう りょうすけ)さんと野沢康平(のざわ こうへい)さんも参加することになった。これで、第二期でパトロールに加わっている人間は八名になる。笠置町翠(かさぎまち みどり)、…

今年初めての探索は悪くない成果で終わった。第二層、延々と続く降り口への道で化け物たちに出会わなかったのが大きい。ほとんど消耗せずに第三層に到着した。まずは真城さんたちから依頼されていたことを済ませる。例の、西野さんと鈴木さんが登ってきた縦…

台風一過。といいたくなるほどいい気分だ。昨日の朝、原因不明の体調不良に見舞われたけれど一日かけて水を飲んでは吐いてを繰り返した結果、かなりいい感じに身体をクリーンにすることができた。やっぱり運動しないで食べてばかりいたのが原因だと思う。難…

昨日は夕方からずっと雨でどうなることかと思ったけれど、今日はいい天気! こんなことなら黒田さんたちとご来迎を拝みに行けばよかった。それでも木賃宿の屋上から眺める朝もやの京都市街は非常にきれいだった。洗濯物も乾きそうだし。 本日もまた示威部隊…

トイレでげえげえと戻す音がする。 水が流れる音。 それがおさまると、うめき声。 また何かを吐く音。 落合香奈(おちあい かな)は濡れた髪にタオルを押し当てながら、雑誌のページを繰った。もちろん損をするとはわかっているが、それでも福袋は大好きなの…

俺には腕力も体力もないけど、反射神経とスピードはあるつもりだった。だから、そう、きっと五キロはあるツナギのせいなのだろう。鈴木秀美(すずき ひでみ)さんに駆けっこでまったく追いつけなかったのは。 今日から二日まで詰め所で示威部隊に加わる。今…

 11:25

「昨日も来てたんですか?」 国村光(くにむら ひかる)の驚きの声に星野幸樹(ほしの こうき)は頷いた。昨日は自衛隊員として、今日は探索者としてだと言う生真面目なその顔に藤野尚美(ふじの なおみ)が敬意のこもった視線を向けた。 「まあつまりあれだ…

 12:32

腹減った腹減ったと唱和しつつ示威部隊が地上に戻った。留守番役の太田憲(おおた けん)、落合香奈(おちあい かな)がお疲れ様と出迎え、ビニール袋の中から折り詰め弁当を取り出した。そして大きなお鍋。これは落合が北酒場のコックに頼んで作ってもらっ…

 14:44

それではよろしくお願いします、と頭を下げると妹――鈴木秀美(すずき ひでみ)と同居している落合香奈(おちあい かな)という女性は心細げにうなずいた。あと一日でも一緒にいてあげたら、いいえ、お正月くらい実家に連れて帰ったら。妹の世話を億劫に感じ…

今年の探索はすべて終了。昨日も書いたように今日は第二層までの探索とエディの部屋だけで早めに終わらせた。もう年末だからだろうか? エディの部屋も新参(といっても、俺たちと一ヶ月弱しか違わないんだけど)の部隊が二部隊いるだけだった。彼らは地力が…

 11:23

車両に乗り合わせた女性は目的地が同じようだった。決して美人ではないがほんわりと柔らかい印象が少し気になっていたが、出迎えてくれて手をつなぐ相手がいる女を追っていても仕方ない。それよりも、と男の方に意識を向けた。ひきしまった身体つきと立ちの…

京都の冬は厳しいというけれど、まだそれほどは実感していなかった。理由はいくつかあると思う。去年の寒さなんてそれほど意識していないというのが一つ、明らかに東京にいた頃より筋肉の量が増えたので気温に左右されにくくなったというのが一つ、そしてな…

 23:17

真壁啓一(まかべ けいいち)を笑顔で見送ってから、神田絵美(かんだ えみ)は真城雪(ましろ ゆき)の猪口に日本酒を注いだ。迷宮街の女帝はすでに相当酔っており真っ赤な顔でにこにこと自分を見つめている。なんだってわざわざ引っ掻き回すようなことを言…

第三層への初挑戦は無事に終了した。第三層では最強の怪物である緑龍に対しても無傷で勝利した。本当に強いなうちの部隊というか笠置町葵は。他の五人が束になっても彼女一人にかなわない自信がある。 それでも強い化け物の代名詞とされている緑龍を幸運とは…

 0:28

三度目に抱きしめて寝かしつけてから、落合香奈(おちあい かな)は真城雪(ましろ ゆき)の携帯電話にメールを打った。今夜はずっと秀美ちゃんについていてあげないといけないから、明日の探索は延期にしてほしいという内容だった。深夜だったのに迷惑を考…

酒場では道具屋のアルバイトの小林桂(こばやし かつら)さんの送別会が行われている。最初の予定では昨日が探索者ではない友達とのもので今回が探索者達とのものという話だったが、見る限りそんな区別なく皆で小林さんの門出を祝っていた。中では真城さんが…

 13:40

自分の女運は最悪だったな、と今泉博(いまいずみ ひろし)は昔を思い出していた。思い出は女性の顔をしていた。それらは一つではなく表情もさまざまだったが、すべてに共通するものがあった。自分を見つめるときの、隠そうともしない侮蔑の色がそれだ。 県…

 13:19

「しっかし、まあ。金具の固定、解けない結び方、そういうものもわからず縄梯子で三〇メートル下りようとしてたのかお前さんたちは」 濃霧地帯のふち、白いもやがかなり薄くなった場所で星野はつぶやいた。さすがは軍人というところだろうか、なれた手つきで…

 12:31

ドアを乱暴に開け、全員そろってる? と叫んだ。鍛え上げられた動体視力は返事よりも前にすべての人間の顔を勘定し、床に積み上げられたロープと金具も確認していた。葵ちゃんは? と笠置町翠(かさぎまち みどり)に双子の妹の所在を確認した。デートです、…

 12:13

五寸釘は既に尽きた。両手に握った二本のナイフ(とはいえ刃渡り15センチ以上あるものだが)だけで既に三度の襲撃を撃退していた。濃霧地帯を出た直後の電話機の横である。西野に命ぜられるままに地上への電話をかけ、真城雪(ましろ ゆき)につなげてから西…

 11:25

「はい真壁です。どうしました?」 『真壁? いまどこに、誰といる?』 「ミニストップです。一緒にいるのは翠と津差さん」 『恩田くんたちの救助隊を組む。協力してくれる?』 「わかりました」 『ありがとう! そのまま鍛治棟に行って、お前たちと健二、葛…

 11:19

電話が鳴った。自衛隊の詰め所に設置されたそれは迷宮内部からの直通電話だった。一般人である自分がとっていいものだろうか? と後藤誠司(ごとう せいじ)は一瞬だけ考えた。いや、いいのだ。迷宮内部から電話をかけるということは、大抵の場合「○○の部隊…

 11:10

奇妙に聞こえるかもしれないが、連戦連勝とは強さを意味しない。もちろんほとんどの場合それを成し遂げるには秀でた能力が必要だったが、あるいは強運によって対戦相手に恵まれただけ、ということも考えられるからには強さを保証してはくれないのだ。本当の…

 11:08

「第一層だ!」 西野太一(にしの たいち)の言葉を聞き、鈴木秀美(すずき ひでみ)は壁面から身体を引き剥がした。ねじって背後を眺めると、確かにぶあつい岩盤の向こうに何度も見た濃霧地帯の白いもやが漂っていた。一一時八分、とつぶやく西野の顔を眺め…

 10:27

予想通りに常識を破られた。壁面への体重の預け方、突起のつかみ方、足のかけ方、鈴木秀美(すずき ひでみ)にはそれだけを手短に教えて登らせてみたら自分でも舌をまく安定で登っていった。あわてて後を追う。経験と手足の長さの違いで簡単に追いついたもの…