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目から火花が、喉からは苦痛のうめきが漏れた。どれだけ実戦を積もうが人間が鉄になるわけがない。苦痛を耐え生命をつなぎとめる力(と覚悟)があっても、平時で人とぶつけた頭の痛みを無視することはできなかった。
「いってえ! 真城さん頭固いよ!」
「…・…うう。ごめん。髪短いからクッションないかも」
同じく探索者である御前崎甲(おまえざき こう)に謝ると、こらえきれないというふうに吹き出す笑い声が聞こえた。見れば探索者の一人真壁啓一(まかべ けいいち)が立っている。
「猫に飛び掛ってあたまゴチンて、マンガの類ですかあなたたちは」
その言葉にはっとして、御前崎の手元を見た。そして周囲を見回す。標的のネコである星野チョボ(ほしの ちょぼ)が植え込みの中から二人を眺めていた。大きくため息をついて、まだくすくす笑っている男を見上げた。
「真壁、いまヒマだよね?」
「いや、これから訓練――」 断りが凍りつく。
真壁の目は思い切り寄り、そこには分厚い刀身があった。床に座り込んだ体勢から一瞬で立ち上がり、腰に下げていた鉈を突きつけたのだった。痛みにうめいても笑われても女でも、迷宮街屈指の剣士であることには変わりないのだ。
「あたしの鉈は痛いよ。――いまヒマだよね?」
「も、もちろんですとも!」