南北大通り

 10:06

どんよりと曇る空。身を切る寒さこそないものの、吐く息はすっかり白かった。湿った風が絶え間なく吹き付けてくるこんな日にはさすがに部屋で暖かくしているだろう、となかば予想していたので、セーターの上に外套を巻きつけてイーゼルの前に腰掛けている姿…

20:05

「こっしー! 止まれ!」 高田まり子(たかだ まりこ)は反射的に叫んでいた。迷宮街の大通り、北酒場に向かう歩道の上だった。声をかけた相手は越谷健二(こしがや けんじ)という名前の探索者である。高田と同じく第一期から探索を続けている彼は、いまで…

 16:30

「片岡さん、どうしたんですかその顔」 お先に失礼します、と声を残して裏口を抜けた小林桂(こばやし かつら)は、商品を納入にきた鍛冶師の顔を見て驚きの声を上げた。先週見たときは健康的に日に焼けていた30代なかばの男の顔は紫色に変色して、右半分が…

 9:23

目から火花が、喉からは苦痛のうめきが漏れた。どれだけ実戦を積もうが人間が鉄になるわけがない。苦痛を耐え生命をつなぎとめる力(と覚悟)があっても、平時で人とぶつけた頭の痛みを無視することはできなかった。 「いってえ! 真城さん頭固いよ!」 「…・…

 22:37

コンビニを出たところで見知った顔が歩いて来るのを見かけた。同じ部隊の魔法使いである笠置町葵(かさぎまち あおい)だった。朱が差した頬を見るところ、アルコールが入っているようだった。 「ああ、常盤くん」 こんばんわ、とあいさつをしてから訊ねたら…