訓練は西野さんと午後からにした。当然午前中は起きられなかったのだ。
西野さんとは初対戦になる。その背筋のなせる技なのだろうか、たいへん太刀行きが速い人だった。ただ、まだ実戦は三度目ということで頭で作戦を組み立てられていないのがわかる。それでも身体能力はすばらしい人で、物覚えもよさそうだった。何より判断がすばやいのがいい。平気で片腕を捨てて切りにくる決断は訓練だからだろうか? そうは思えない。それはやはり、地上数百メートルで自分が打ちつけた金具とザイルだけで生き抜く人の潔さなのかもしれない。学ぶところは沢山あるものだ。
と、西野さんを持ち上げているのは実際にチャンバラとして考えれば俺が圧倒したから。神崎さんがやるみたいに小さな動きで体勢を崩すのにも成功した。ということは神崎さんには俺はこのように見えているのだろうな。同じ第二期の探索者とはいえ実力の優劣は出てしまっている。客観的に見て俺は上位にいると思うがトップではない。
最上にはもちろん笠置町翠(かさぎまち みどり)が来るとして、次に強力なのはなんといっても津差さんだ。遠近感が狂わされるほどでかいこの人は、それでいて残像が見えそうなほど速く動く。第一期の先輩探索者たちが前衛を失ったとき、まず白羽の矢が立つのは津差さんなのだ。その伸びは大変なものがあるし、基礎体力や筋力では翠とは比べ物にならないから。そして次にはタカ派の部隊を組んでいる高坂新太郎(こうさか しんたろう)さんと神崎さんが続く。津差さんが剛なら神崎さんは柔、高坂さんは静という気がする。この人は普段はゆったりした動きなのだけど、こちらの緊張が途切れた瞬間に打ち込んでくることが多い。そのあとは俺とか青柳さんとか横一線になる。まあ、生き残ることが大事なのであって強さは求めていないからいいのだけど。
いや、少し悔しいです。
別格の強さを持つ翠はなんだか今日、ずっと走り回っていた。訊いてみると星野さんという先輩探索者の家のネコが逃げ出して行方不明なのだそうだ。治療術師の訓練責任者である久米錬心(くめ れんしん)さん、先輩探索者の治療術師たちがあつまって、迷宮内部で行方不明になった人を探す術を使っては翠や常盤くんや津差さん、佐藤さん、太田さんなどが走り回ったらしい。結局見つかったのだろうか?