誰も泣かなかった。それが一番の驚きだった。探索者の中には神崎さんと男女の仲だった人もいるはずなのに。
神崎さんの部隊が全滅した。今日はじめて第二層に挑み、そこで何かにやられた。ちょうど地上への電話機が設置されているあたりで敵に襲われたらしく、その敵を撃退したあとで地上へ救援を求めたが、真城さん、越谷さんなど三人が救助に行ったものの、もう持ち帰ることもできない状態だったらしい。全員分のツナギ生地があったからみんな食われたんだね、と真城さんはあっさりと言った。その淡白さと彼らの危機を知って泣きそうな顔で越谷さんたちに同行を頼んでいた姿にあまりのギャップがあった。助けられるものは助けるが、ムリなら見切る。生物として自然なその姿勢は人間には不自然なはずだったが、ここではそれが誰にもとがめられない。とがめようものなら古参の連中から袋叩きにされそうな雰囲気だった。人間らしさを失っていて、しかしそれを指摘できる雰囲気ではないというのは深刻な問題なのではないか、そう思える。なんだか吐き気がする。


違う。
吐き気がするのは自分に対してだ。
俺は、神崎さんの死を悲しむよりも、あれほどの戦士を殺せる化け物が第二層にいることに強い興味を感じている。迷宮街に来た直後、小寺の死体を囲んでいた時と今の俺と、本当に同じ人間なのか?