寒い! 朝方の気温はすでに三度ほどだ。最近は朝六時に起きるようにしている。この時間なら必ずモルグでは誰かしらの目覚ましが鳴る。これまでは舌打ちしながら二度寝していたけど、それよりは起きてしまってトレーニングを早めに終えたほうがいいと最近気づいたから。今日もジャージに着替えて30分ほど運動場を歩いてから一時間ストレッチ、その後一時間走った。当然のことだけど東京にいた頃より身体が軽い。おそらく、20キロなら1時間20分を切れるだろうな(東京にいた頃の最高記録は1時間27分)。ハーフマラソンの大会に出てみようか。京都のはもう受付が終わってしまったけど。
朝のジョギングでは幾人か見知った顔ができた。その中に昨日初めてお話した落合香奈(おちあい かな)さんと、黒田さんの部隊の戦士である境周(さかい あまね)さんがいたので挨拶した。落合さんは真城さんの部隊の罠解除師。昨日も書いたけど観察力が鋭くてこの人の怪物写真がいまではほとんどの怪物資料に使われている。髪の毛を無造作にポニーテールにしてたったかと走る姿はアメリカの映画に出てくるキャリアウーマンみたいだ。そのイメージは普段からそうで、街中で見かけるときもいつも颯爽としたスーツ姿で、必ず俺以外にも数人はぽかんと口を開けて見とれている男がいる。
境さんは対照的に朴訥そうな男性。さかいあまね、なんて詩的な名前なのに。穏やかに人の話を聞いて微笑んでいるのが似合っている。でも黒田さんいわく「怪物と戦っているときは、どっちが怪物かわからないくらいの気迫」なのだそうだ。
二人に今日のたくらみを打ち明けたらいいなと言われたので誘ってみた。ジョギングを切り上げて汗臭いまま着替えを担ぎ、レンタカー屋の前へ。津差さん越谷さんが待っていた。みんなで鞍馬温泉でも行こうじゃないか、と昨日の晩に相談がまとまったのだ。三人だと思って借りたマーチ(といっても203センチの津差さんがいる時点で選択ミスだと思うけど。こんな人は軽トラの荷台に乗せておこうよ)に五人詰め込んで出発した。
迷宮街ではお風呂は銭湯を使っている。モルグの住人だけではなく、一般の方とも触れ合うべきという考えからだった。それでも大半は探索者だから、こうやって外のお風呂に入ると気づくことがある。やっぱり探索者は絞り込まれた身体をしているなということ。四人とも前衛だからなおさら、後衛でも三日に一回は三キロあまりのツナギを着て20キロ近く歩く生活をしているわけだから、探索者には肥満体というのは見当たらない。真城さんなんかいかに脂肪を残すかで苦労しているらしい。温泉には深夜のドン・キホーテにジャージで来そうな人が数人いたけれど、俺たちの身体を見て黙りこくってしまった。多かれ少なかれ全員の身体に刀傷があるのだからそれももっともか。
昼ご飯は俺の強い要望でCoCo壱番屋になった。東京にいる頃はよく食べたな。もう1300グラムの挑戦はなくなってしまったのか? 昔は1300グラム食べたらタダというゲームがあって、二回やって二回失敗したと話したらじゃあやってみようということになった。
リザルト
 津差 龍一郎 1500グラム 完食。
 越谷 健二 1300グラム 完食。
 境 周 1300グラム ギブアップ。
 真壁 啓一 1300グラム ギブアップ。
 落合 香奈 1300グラム 完食。
なんなんだアンタいったい。ああ、まだ胃の形がわかる。