23:25

「すっげー! 啓ちゃんがしゃべってる!」
「ほんとだよ、ってか痩せたな啓一!」
「かっこよくなってるよね!」
ロープウェイに乗っているときのように、急激な気圧の変化に鼓膜が張り詰めて唾を飲み込むまでは外の音がなんとなく別の世界の出来事になってしまうような、あの感覚で会話を聞いていた。頭の中では画面の中、恋人の言葉が響いている。
「自分の感じ方、考え方が日々プリミティブに言い換えれば動物的になっていくことにある日気づいてものすごく怖くなることがあるんです。俺たちは金を稼ぐのと同時に何か別のものに変わっていってしまっているんじゃないかって」
そんなことはないはずだ。肩にそっと手をあてた。唇の形のアザは消えてしまったけれども感触は残っている。あれは変わっていなかった。変わっていなかったはずだ。しかし脳裏に鳴り響く。
・・・別のものに変わって・・・