奥野道香

 23:25

「すっげー! 啓ちゃんがしゃべってる!」 「ほんとだよ、ってか痩せたな啓一!」 「かっこよくなってるよね!」 ロープウェイに乗っているときのように、急激な気圧の変化に鼓膜が張り詰めて唾を飲み込むまでは外の音がなんとなく別の世界の出来事になって…

 17:28

「おや、克巳も早いね」 奥野道香(おくの みちか)の言葉にテレビの前に座っている同級生が振り返って笑った。いま来たところだよ、という彼の名は二木克巳(にき かつみ)といい、大学ではゼミそしてフットサルのサークルでも同期にあたった。この部屋の主…

淡々と定期巡回をする。以前はサッカーチームのファンサイトが中心だったが、ネット上にはおもしろいエッセーを書く人がいることを最近知ってからは、毎晩一回はお気に入りをクリックするようにしている。お気に入りの一つ、おもしろくはないがもうちょっと…

 20:17

店員の手にある皿を見て奥野道香(おくの みちか)は叫んだ。誰も触るな、動くな、そのコロッケは私のだ、と。サークルの後輩たちの試合を観戦したあと財布の機能を多分に期待されつつ打ち上げに招待された。自分と同じ四年生はゼミも一緒になる二木克巳(に…

 19:17

「座れたー!」 早速にかばんの中から紙袋を取り出した。中にはお土産に持たされたクッキーが入っている。 「みんないい人だった! 重ね重ねお礼を言っておいてね!」 笠置町翠(かさぎまち みどり)は、隣りに座った真壁啓一(まかべ けいいち)に笑いかけ…