二一時一七分

仲間たちが怪物を意識し警戒できるのは視界に入ってからのこと。数度の探索でそれはわかっていた。しかしこの濃霧地帯においては仲間たちの視界は著しく狭く、よほど近づかない限り警告しないことにしていた。往来する怪物たちの集団、その行動からこちらの存在に気がついているかどうかを判断し、戦闘が回避できないものだけを教える。倉持ひばり(くらもち ひばり)が怪物たちを感じ取るセンサーはすでに120メートルに達し、それは横穴の中まで走査するために常に同時に10体以上の怪物を感じていた。それらがみなこちらに来るようならば問題はない。しかしその九割以上は自分たちの存在に気づかず、獲物を探しては遠ざかっていく。誰にも負担させることができない監視の作業は、発見し次第仲間たちに知らせていたこれまでのやり方よりはるかに消耗の度合いが強かった。額の汗をぬぐう。
仲間には仮眠を取るように言ってある。20時から22時までの二時間、自分と佐藤良輔(さとう りょうすけ)の部隊だけで守らなければならないからだ。ちなみに佐藤の部隊には普段は津差龍一郎(つさ りゅういちろう)という戦士がいるが、部隊を掛け持ちする彼は今回の警備においては高田まり子(たかだ まりこ)が率いる精鋭部隊と行動をともにしている。よって暫定的に佐藤がリーダーだった。とはいえ誰も不安を訴えるものはいない。佐藤は第二期の中でも屈指の戦士であり先日行われたトーナメントでも素晴らしい成績をあげているのだから。
「お疲れさま」
そう言って缶ジュースが差し出された。リーダーの進藤典範(しんどう のりひろ)は機転をきかせて今夜は保温ボックスを持ち込んでおり、中には暖かい飲み物が詰め込まれている。コーンポタージュをありがたく受け取り、頬に押し付ける。その表情が翳った。
センサーにまた怪物の一団が入り込んできている。珍しくわき目もふらない動きはこちらを目指してのものだろうか? ん?
人数が多い。すぐ脇にいた進藤に皆を起こすようにサインを送った。進藤はうなずくと仮眠を取っているメンバーの元に駆け寄った。その音だけでほとんどの仲間が目を開いている。仮眠をとるようには言っているが、眠るほど安心もできなかったのだろうか。その間にもセンサーにはぞくぞくと怪物の反応が入ってきていた。
「――倉持さん」
佐藤の部隊の太田憲(おおた けん)が小声で話し掛けてきた。それにうなずく。もはや一団と呼んでいい怪物たちの先陣は太田のセンサーにも入り込んだのだった。
「進藤くん」 我ながら緊張で固い声。心の中で舌打ちする。
「すぐ地上に連絡して援軍を要請してください。おそらく私たちを目指してかなりの数の赤鬼青鬼、こそ泥がやってきています。数は現段階で150匹ほど」
進藤の顔は恐怖でこわばり、臨時に設置してある電話機に駆け寄った。
「マカニト使える人っている?」
念のための質問には魔法使いが二人とも首を振った。広範囲に影響を及ぼす術があれば戦局は変わるが、なければあくまで援護がやってくるまで局地的な魔法と戦士たちだけで防ぐしかない。しかしまさか一五〇匹以上の軍団とは。完全に甘く見ていたようだった。奥歯が震える。