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「こんばんはー」
ノックして開かれた扉の向こう、落合香奈(おちあい かな)に真壁は笑いかけた。落合も笑顔を返して部屋に招き入れる。
真城雪(ましろ ゆき)が常に押さえているロイヤルスイートの一室だった。今でこそあるじは木賃宿に住まっているが、その代わりに現在ではある戦士とその看病人が利用している。
「南沢さんはいかがですか? 目が覚めたって」
「うん、さっきシャワーを浴びに行ったからそろそろ出てくるんじゃないかな?」
それから、信じられる? と。
ナミー、昨日の夜からこれまでご飯二升食べてるよ。
「二升? いや少ないくら――え? 升? 二合ではなくて?」
いやいや、と落合は首を振る。二升だよ。二十合とも言うよ。よっぽど疲れたんだね。
「何十人もの命を救うってのは、やっぱり大事業なんですねえ」
しみじみとした真壁の述懐に落合もうなずいた。何十人も救うというその表現が大げさでもなんでもないことは、この街のすべての探索者が知っている。
扉の音、そしてのんびりとした声で名前を呼ばれた。
短パンだけはいて上半身裸の巨人がそこに立っていた。全身いたるところに残る傷跡は、もちろんこの数日以外のものがほとんどだろう。それに自分の身体も程度こそ違えど同じような有様になっている。それでも真壁は自然と頭を下げた。
下げた首筋に低い声が降ってきた。ありがとう、と。顔を上げると巨人は笑っていた。
「俺のほうでも、真壁くんにはお礼を言いたいと思っていますよ。よく俺を選んでくれたって」
真壁はさらに深く頭を下げる。