南沢浩太

これが最後の日記になる。一一月一日から始まって、途中書いてない日があるとはいえ三ヶ月。自分の中でも日記をつけた最長記録だ。いろいろ勉強になった。書いておく、っていうのは頭を整理するためにいいな。この街を出ても、当然ウェブじゃないとしても日…

 21:42

「こんばんはー」 ノックして開かれた扉の向こう、落合香奈(おちあい かな)に真壁は笑いかけた。落合も笑顔を返して部屋に招き入れる。 真城雪(ましろ ゆき)が常に押さえているロイヤルスイートの一室だった。今でこそあるじは木賃宿に住まっているが、…

 14:05

「あら」 「おや」 「わーい」 「・・・・」 京都駅前伊勢丹デパートの六階で三人が驚きの声をあげた。真壁啓一(まかべ けいいち)はデパートを歩く人間には似つかわしくなく空身でにこにことその三人を見ている。ちょうどよかった! という笑顔になにがだ…

 13:37

もとの皮膚の色がどうだったのかわからない。しかし六人で見下ろすその化け物の肌は、明らかに不自然な紫色をしていた。禁術の産んだ死の不健康な何かに満たされたその身体はしかしまだ息があり、ずるずると奥へと這っていく。 「なんだかかわいそう」 笠置…

 13:36

先陣を切って走り出した背中を追った。あくまで冷静に、いい奴らだな、と気分が昂揚した。こいつら――大きな男は違うらしいが――だったら可愛い従妹たち(意識の中では妹だったが)を任せて安心だ。激戦を数秒後に控えてなおその心は落ち着いている。眼前にい…

 13:35

たぶんビンゴですよ水上さん。作業員たちがプロの面目躍如であっという間に広げて二人ずつなら通れるようになった空間に入り込んですぐ、常盤浩介(ときわ こうすけ)が言った言葉だった。壁を抜けたそこはかなり広くまっすぐに東に向かっている。ヘッドライ…

 13:06

ちょっと、ごめん。呼ばれてやってきた南沢浩太(みなみさわ こうた)はそう断ると床の上に大の字になった。たちまちのうちにいびきをかき始める。その姿に真壁啓一(まかべ けいいち)は自然と頭を下げた。自分が無茶を言っていることがわかったからだ。 大…

 20:06

シャンプーを泡立てながらの鼻歌を、隣りでおきた妙な声がかき消した。うおっ! というそれは驚きと恐怖。決して銭湯で聞こえていいものじゃない。どうした? とちらりと視線を送ったらその男は浴場の入り口を向いたままぽかんと口を開けている。 名栗透(な…

影が手元を覆ったその瞬間の足音が、普通の身長のものよりほんの少しだけ遠かった。なんだいナミー? と黒田聡(くろだ さとし)が顔もあげずに問い掛けたのはそれが理由だった。近寄ってきた人影はうろたえたように揺らぎ、気を取り直して近づいてくる。そ…

で、十分に気合がはいっているけどどうなのよ勝算は? と落合香奈(おちあい かな)は女帝と呼ばれる女戦士に訊いた。真城雪(ましろ ゆき)は苦笑する。難しいわね。もともとナミーは器用でもずるがしこくもないし。あのオッチャンは最悪の相性じゃないかな…

大丈夫なのかな、と真城雪(ましろ ゆき)は心配に思う。あと5分後に自分の試合が迫っているというのに南沢浩太(みなみさわ こうた)の顔には緊張も気迫も見られない。まるでこの大会自体をどうでもよく感じているように見えた。そもそも参加したのだって津…