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「陸ー! こっちこっち!」
内藤海(ないとう うみ)は改札口に現れた人物に手を振った。その人物の、茶色のコートの袖につけられたボアがふわふわと揺れる。駆け寄ってくる妹を暖かい気持ちで見つめた。
「お疲れ様でした陸さん。京都駅まで迎えに出てもよかったのに」
「迎えにって、地下鉄一本じゃない。私もう大学生よ?」
そっか、と海は笑う。彼が神戸でアルバイト生活をはじめたのが去年の九月ごろだから、一年以上ぶりの再会になるのだった。野暮ったいブレザーの印象しかない妹は、今ではふさふさのえりまきがついたコートを着ている。
「お? ピアスあけたね」
耳から垂れる輝きに手を伸ばした。一才下のこの妹とは不思議に仲がよかった。一番上の兄を含め空、海、陸となるその名前のお陰もあるのだろうかと思っている。お母さんが反対したろう? と質問すると全然! と笑顔が返ってきた。お母さんと一緒にあけに行ったんだから、という言葉に目を丸くした。
「みんな元気そうでよかった――とにかく街に行こう」
妹のバッグを肩に担いで歩き出した。女というものはたった三泊にどうしてこんな荷物を用意するのだろうと思いながら。