内藤海

 06:53

仲間の死には慣れている。地下は自分たちにとってあまりに過酷であり世の中には運不運というものが歴然としてあるからだ。しかし安置室に並んだ三つの屍を前にして津差龍一郎(つさ りゅういちろう)はやるせない思いを抑えられなかった。理由はいろいろあっ…

 06:42

秋谷佳宗(あきたに よしむね)の戦いぶりをさして「踊りのよう」と表現する連中は、当然彼のもう一つの顔を知っているからそういうのだろう。しかしそれを差し引いたとしても背筋が常に伸びて安定した下半身の動きは優雅な印象を見るものに与えた。しかしそ…

 11:13

迷宮街のはずれに誰かが作ったベンチを見つけた。立ち枯れていたクヌギをそのまま組んだのだろうか、風雨と陽光によって磨かれたそれはとてもいい雰囲気をかもし出していた。とはいえ当初はそのベンチをスケッチのための椅子として使おうと考えていたのだが…

後頭部には大きなたんこぶ。触るとまだ痛かった。明日になれば、児島さんがもう一度治療してくれるらしいのでそれまでは我慢しないと。今日は横を向いて寝るようかな。 迷宮探索も三日目で、最初の頃よりはるかに度胸もついた。さらに、俺たちの魔法使いは他…

 15:52

迷宮街の中心はなんといっても中央を東西南北に走る大通りだ。二車線通りのそれは東西南北にそれぞれ三キロほどで中央で交差している。迷宮街の外からそこに入るのは西口しかなく、入るには身分証明書のチェックが、出るには荷物の検査が必要なのでそこでは…

 13:25

「陸ー! こっちこっち!」 内藤海(ないとう うみ)は改札口に現れた人物に手を振った。その人物の、茶色のコートの袖につけられたボアがふわふわと揺れる。駆け寄ってくる妹を暖かい気持ちで見つめた。 「お疲れ様でした陸さん。京都駅まで迎えに出てもよ…

 22:10

一晩三千円を支払えばシャワー付の個室が借りられる。今日の収入は六千円と少しだから実際にはそんな余裕はないのだが、津差龍一郎(つさ りゅういちろう)は個室を借りることにした。今日が初陣で三度遭遇し、彼はハト派のパーティーを組んでいるので一度は…