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「いま言われていきなり人数が集まるわけねえだろ阿呆! 俺らは卒論書いてんだよ!」
二木克巳(にき かつみ)は携帯電話の向こうを罵倒した。流れてくる声は大学のゼミの親友でなにを好き好んだか卒業直前にして退学した男のものだ。久しぶりに東京に戻ってきているのでみんなで会えないか? という電話だった。
やっぱりみんな忙しいか〜。でも日記を教えてるんだから昨夜のうちにチェックしておけよ〜とのんきな声が流れてくる。
みんな読んでるよ、と心中で呟いた。全員飲む気も充分らしく、昨夜は彼の日記を読む前に『幹事よろしく!』という三通のメールで上京を知ったくらいだから。しかし一番呼びたい人間、いなければならない人間には逃げられてしまっていた。昨夜「五時に迎えに行くから」と言い残して去り、裏をかいて三時半に迎えに行った。すでに留守だった。
さすがに四年間親友をやっていると違う。
「ああ、わかった。明日な、明日なら大丈夫。新宿の、おまえが好きだったあの中国料理屋で。ああ、六人で予約取るって。大丈夫だよ。じゃあ切るぞ」
受話器をしまい、ターゲットである女性の居場所を考えた。泊まりに行きそうな友達のところには連絡が届いており、見つけ次第確保してくれるように快諾してもらっている。いちど彼女のアパートに戻ろうと思い直し西武新宿駅方面へと向かった。アパートのドアにはセロテープで髪の毛を張ってあるから、ドアが開閉すれば髪の毛が切れてわかるようになっていた。居留守を使おうが無力だ。
絶対に二人を会わせなければならない。その思いが二木を縛っている。