今日も晴れ。訓練場では海老沼洋子(えびぬま ようこ)さんに稽古をつけてあげる。この子は身長一六五センチということで重量も筋力も(戦士としてやっていくなら)絶望的に足りない。というより問題はそれ以前。剣筋は悪くないと思うし視野も広いと思うのだけど、普段の鉄剣よりははるかに軽いはずの木剣ですらふった後体勢を崩してしまうのは、体格に比べたとしても下半身が弱すぎると思う。そんな身体であの体力テストをクリアしたんだから根性は人並み以上にあるのだろう。だから、地道に体幹を鍛えて足腰を鍛えていけば、きちんとした動きはできるようになる――そう励まして終わった。
言っていないこともある。一つは、そうして初めて入り口に立つわけで、相変わらず体格のデメリットは存在するということ。そして、探索においては、特に前衛においては、無力な人間にはそれほど時間的な猶予はないということ。死んでしまったら成長もくそもない。本心を言えば彼女はあきらめた方がいいと思う。しかしそれを言うのは俺の仕事じゃない。
もし活路を探すとして体格的に最も近いのは翠だろう。けれど翠は一五年にわたって身に付けた体さばきがあるし剣術がある。そしてなにより体力的にはそこらの男たちより上だし筋力もある。だから参考にはならない。翠より少し低い鈴木さんはそもそも違う次元にいる気がする。
夕方、真城さんに呼び出された。話自体は夕べから広まっている、迷宮内の縦穴(西野さんと鈴木さんが這い登ってきた奴だ)に上下移動のゴンドラをつけようというものだった。俺たちも第三層に向かうためには二時間弱は歩かなければならない。それがショートカットできるのなら大歓迎だ。それに、第三層をメインに稼いでいる俺たちには当面稼ぎに大きな変動はなさそうだ。だから反対する理由はない。そう答えたら、部隊の他の仲間にも訊いておいてということだった。承諾する。
真城さんはこの一晩で別人のように綺麗になった気がする。もちろん美貌はもともとだ。けど、今の生き生きした姿を見ていると昨日までの顔はやっぱりどんよりとして鬱屈していたのだとわかった。それほど嬉しそうだった。真城さんが何を求めてこの街にいるのか知らないけど、この人は本当にもっと地下へ地下へと探検したかったんだなとこっちまで嬉しくなってきた。
ただ、交渉する相手は俺たちだけじゃなくて、もっと厄介な人たちもいる。普段は無料の特典で暮らしており、たまに地下に潜ってはお金を取ってくる部隊だ。それはそれで認めるべき選択なのだけどどうにも尊敬する気にはなれない人たち。第一期の大半を占めるその人たち、第二期でも早々に心をくじかれて同じ選択をした人たち、その数は実は全体の七割を超えるという話だった。真城さんがどの程度の賛成を取り付けたらゴンドラが(そして買い取り価格の変動が)実現するのかわからないけど、彼らも当然説得しなければならないだろう。がんばって欲しいなと思う。――無茶しないで欲しいと、そしておかしなことに、俺は六歳も年上の女帝が傷つかないことを祈っている。
でもまあ、ぴったりと越谷さんがついているから大丈夫だろうな。