23:35

「ああっ!」
突然の奇声に大沢美紀(おおさわ みき)はびくりとしてカップを動かしてしまった。残り少なかったからこぼれた紅茶は少なくて済んだが、何をそんなに驚いているのか――視界の中では従姉の大沢真琴(おおさわ まこと)がテレビをじっと見つめている。満面の笑みだった。
テレビを見せてほしい、録画もしてほしいと従姉が言ってきたのは昨日の夜のことだ。彼女はかつて迷宮街という京都の一つの街で地下に潜っていたことがある。そのときの仲間が映っているかもしれないというのだ。彼女の家ではその街についての話題はなんとなくタブーとされており、一人暮らしをしている美紀を頼ったのだった。
番組開始してしばらく、かつて自分のボスで現在は迷宮街担当の責任者になっている人間のインタビューなどに笑いながらすごしていたが、場面がどこかのお店にクリスマスの飾り付けをするシーンになった途端にこの奇声だった。
「なに? 恩田くんてひと?」
「そうそう! うわー。こんなにたくさん棒運んでる・・・」
そして感慨深げに、ただうわー、とつぶやいていた。
「元気でやってるんだ、恩田くん・・・よかった」
そんな従姉の様子を眺めながら美紀はただ紅茶をすする。