大沢真琴

 11:08

記載されているURLは投票受け付け画面への直通だったらしく、自分の探索者番号とパスワードを打ち込んだ。表示される画面はシンプルなもので賛成と反対の二文字の下に二者択一のボタンが置いてあるだけだ。あとは自分の名前とコメントを書く欄もある。上…

 23:35

「ああっ!」 突然の奇声に大沢美紀(おおさわ みき)はびくりとしてカップを動かしてしまった。残り少なかったからこぼれた紅茶は少なくて済んだが、何をそんなに驚いているのか――視界の中では従姉の大沢真琴(おおさわ まこと)がテレビをじっと見つめてい…

 22:05

わざわざありがとう、と礼を言って電話を切る。そして大沢真琴(おおさわ まこと)はため息をついた。迷宮街にいるはずの知人の消息、もしやと思って尋ねてみたがやはり知らないという。仕方のない話だった。小さいとはいえ街なのだから。 彼女が迷宮街に向…

 11:47

どんなにきっちりとルールが決められていても、いや、決められているならなおさら細かなところで目こぼしの余裕は必須だと巴麻美(ともえ あさみ)は考えている。それは事務員でも同じこと。違うのは、事務員相手のお目こぼしはささやかなもので済むというこ…

 9:12

「お宝とりまーす!」 いつもはつまらなそうにしている娘の元気な声に、恩田信吾(おんだ しんご)は何かいいことがあったのだろうと嬉しく思った。罠解除師の鈴木秀美(すずき ひでみ)は見かけにも年齢にもよらず豪胆な娘で、それは仲間として頼もしいこと…

 18:30

「最近すっかり腰が痛くてねえ」 義理の父になる予定の男性のそんな言葉に不思議な既視感を覚えた。義理の兄になる男性がそれをたしなめる。毎日働きもせずごろごろして、それでいて飯だけはたっぷり食ってりゃ身体も悪くなる、腰なんかはらぺこでぐっすり寝…

 18:37

連休のうちに電話で快諾を伝えてはいたが、それでも出勤して立ち上げたグループウェアソフトに自分の辞令を知らされたときにはさすがに言葉に詰まった。 後藤誠司。 一二月一五日付けをもって右を関西営業部京都支店迷宮街出張所長に命ず。 懇意にしている田…

 14:07

うーん、と苦笑して恩田信吾(おんだ しんご)は携帯電話を切った。その電話の内容は不愉快になってしかるべきものだったけれど、まあ仕方ないかなという納得の気持ちがある。 勢い込んでこの街にやってきたとはいえ、探索者登録を終えればすぐに地下に潜れ…