24:02

さあ、燃料を追加しよう! と叫んだ木村ことは(きむら ことは)はもう本日は夜明かし決定であると態度で明言しており、補給部隊に命ぜられた二木克巳(にき かつみ)、神野由加里(じんの ゆかり)はコンビニに向けて歩いていた。
元気そうでやっててよかったなー、と嬉しそうにつぶやく二木の横顔にうなずく。必死の思いで。
交差点。青い色が点滅し、同行者は小走りで走っていった。神野も頭では走らないとと思うが身体が言うことを聞かない。先ほどまで放送されていた番組の最後のシーン。迷宮に下りていく探索者たちの背景に彼女は恋人の姿を見つけた。他の誰もわからなかったようだったが彼女にはわかったのだ。待ち合わせの場所に立つ背中を探したのはもう百度ではきかないくらいなのだから。そして隣りに立つのはこれまた見覚えのある女性。恋人が世話になり言葉どおりの意味で何度も命を助けられたという女性だった。気丈だけど繊細で、すっかり友達になった女性だった。二人は一緒に出かけるところのようだった。そう。それは彼の日記に書いてあるから知っていた。撮影の二日目、その女性と一緒に神戸の動物園にパンダを観にいったと読んだし彼からも聞いている。
でも、確か――確認するのが怖かったが――他の探索者の男性、そして女性の双子の妹と四人で行ったのではなかったのか? 二人並んで自動販売機のボタンを押す恋人とその仲間。そのすぐ後ろには彼らがレンタルしたとおぼしき車があった。そう。たまたま二人だけで、これから合流するのだろう。そうに決まっている。しかし一つのことが違和感を与えていた。
どうして車は軽自動車だったのだろう? 同行した男性は大変な大男でマーチを頼むことすら選択ミスと恋人自身が書いていたはずなのに。
ポケットから携帯電話を取り出す。この年末、何度か恋人が油断している横顔をそのカメラで撮った。十枚近くの画像のうちたった一つ満足できたそれ、寝顔をじっと見つめる。
どうして軽自動車だったのか? 本当に四人で行ったのか? もし二人だけならどうしてそんな嘘をついたのか?
「答えてよ」
視界がにじむ。画面の中の寝顔はもちろん動かない。