仲間うちでの了承も取れ、いよいよ日記の迷宮街開放。ここでは親しい人以外には単に掲示板に書き込むだけで済まし、俺の最終日二六日までは苦情を受け付けることにする。ここでいう数人の親しい人というのは真城さんと津差さん、あとは掲示板を見ない可能性が高いコンビニの織田さんだけ。織田さんには店頭で簡単に事情を知らせてURLのメモを渡した。一緒にバイトしてる男の子が「ナンパっすか!」と言っていたけどそりゃ古いシチュエーションだ。津差さんはものすごく津差さんらしく「別にいいよ、何書かれてても」だそうだ。そして真城さんはものすごく真城さんらしく「私の魅力を損なうような描写があったら即座に削除させるので、お前も検閲に立会いなさい」とまたもやロイヤルスイートに招待(連行)された。
特に不満はなかったらしく許可が出たけれど、翠のプライベートがかなり書かれているのは本人に了解を取れたのかい? と心配するのが結局この人らしい。俺もそのあたりは全削除するつもりだったがなんだか本人がさっぱりとしていたのだからそのままで公開することにする。「別に気にしないし、何年か経ったらいい思い出になるよきっと」といい笑顔だった。強くなったなあとしばし父親の心境。
今日はいい天気だったので、翠、進藤くん倉持さんとドライブに出ることにした。昨日の雪が残っているので運転に自信がなかったけど、倉持さんは翠と同じ木曾の出身で雪道の運転には慣れていた。途中で海老沼さんの話題になったけど、彼女は二刀流に適性があるらしい。両手に剣を持ってる背中ってのは安心感を与えてくれるもんだわと倉持さんが感心していた。噂では倉持さんは海老沼さんを部隊から外すようにと提案していたらしいけど、いちど頼りになるとわかったらからっと意見を改めるところが大人だなと思う。「あの子にはオシャレを教え込むわよ。これからは余裕も出るだろうから」と嬉しそう。助手席に座っていた翠の耳を掴んで「この子は私がどんなにうるさく言っても日焼け止めすらつけなかったから」と昔話を教えてくれた。笠置町姉妹や水上孝樹(みなかみ たかき)さんとは家が近所で遠縁の親戚にあたり、子どもの頃から二人の遊び相手をしてあげていたという。強気の翠も頭が上がらないようでそういう姿を見ているのはなんだか面白い。
ドライブの先は、京都生活の残り少ない俺のために観光地である大原と嵯峨野に連れて行ってもらう。さすがは観光地、ほとんど除雪されているし車が通るには支障ないくらいだった。有名な渡月橋も見たし、人力車にも乗ったし。人力車では案内されるままに湯豆腐のお店に連れて行かれた。そこで意地悪をして「もう少しこのあたりを散歩してからこのお店でご飯を食べるわ」と言ったらお兄さんは困っていた。そりゃそうだ。観光客を店に連れて行くことで臨時収入のお小遣いを稼いでいるんだから。もちろん意地悪は言葉だけで湯豆腐を食べる。晴れとはいえ寒いからおいしい。
いろいろなところを見てまわった。野々宮神社で真剣にお祈りするほかの三人を見て面白かったり。いやだねえ、独り者は。
迷宮街に帰ると織田さんからの伝言があった。特に問題ないのではということ。掲示板の反応では特に何もなし。もともと個人攻撃に属することは書いていないからだろう。
明日はまた探索。辞めると決めてからは残りの探索回数を指折り数えるようになってしまった。おそらく、探索目的で潜るのは明日がラストになる。明日潜ったらなか二日だと22日。その日に潜ってしまったら23日の工事開始(大量の物資運搬と警護作業)に参加できないから。投票の結果いかんでは23に探索で潜ることにしているけど、きっと可決されるだろう。なんとなく空気でわかる。
まさか物資運搬&警備で死ぬこともないだろう。だからあと一日だ。なんとか生き延びよう。