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もうアルコールはいいやと向かったドリンクバイキングのスペースには黒田聡(くろだ さとし)の姿があった。彼はパーティーには参加していなかった。もともとそれほど親しく話をしたわけではなかったし、離れた場所に席を取る彼の隣には明らかに探索者ではない女性が座っていたから。先週の人とは髪型も身長も違うな、ということは皆が思っても誰も口に出さない。そういうことになっている。
「お疲れ」
グラスをセットしウーロン茶のボタンを押しながら真壁は頭を下げる。
「今度東京に遊びに行くよ。案内してくれ」
真壁は首をかしげた。この男は甲府出身の自分よりはきれいな共通語を使っているのだが――。
「あれ? 黒田さんて出身は?」
「千葉」
「・・・じゃあわざわざ」
「女子大生がいるところに案内してくれ。まだツテあるだろう?」
真壁は苦笑して、テーブルで目の前の男性を待っている娘をちらりと覗き見た。先週とは違う娘はただ一つ共通点がある。それは、外見だけで考えれば女帝には及ばないにしても笠置町姉妹よりは美貌であるということ。世の中って不公平、と思わざるを得ない。
「・・・ひとり、すごい美女がいますけど」
「ようし、それでいこう」
しっかりと握手を交わした。しかし実のところその片方はこの野郎懲らしめてやると思っている。