で、十分に気合がはいっているけどどうなのよ勝算は? と落合香奈(おちあい かな)は女帝と呼ばれる女戦士に訊いた。真城雪(ましろ ゆき)は苦笑する。難しいわね。もともとナミーは器用でもずるがしこくもないし。あのオッチャンは最悪の相性じゃないかな。
開始の声とともに南沢浩太(みなみさわ こうた)は腰を落とした。両足かかとを軽く浮かせ、膝はほぼ直角になるほど体勢が低い。それは緩く膝を曲げている神足燎三(こうたり りょうぞう)よりもさらに低い視線になっていた。そしてじりじりと間合いを詰めていく。対する神足は姿勢の低さで張り合うことをあきらめたかのように背筋を伸ばすとその南沢を中心に弧を描いて歩きだした。中心となった南沢もそれにあわせて身体の向きを変える。その図は攻めあぐねているようにも見えるし、獲物の隙を狙う肉食獣のようにも見える。どちらであるかは結果が決めるだろう。
ナミーは本当に素直だからねえ、と真城がつぶやいた。傍から見ててバレバレの誘いでも反射的に――
その言葉が終わらないうちに南沢が跳躍した。きっかけは、弧を描いて歩く神足の両足がほんのちょっとぶつかり歩調が乱れたことだ。
たった二歩で3mの距離を詰め、完璧な踏み込みで胴をなぎ払った。分厚いツナギでも素人相手なら腰骨が折れる一撃だった。神足はかわさない。
しかし刀身は唸りをあげて空を切った。南沢の飛び込みと同時に神足も軽く跳躍し前方に両足を投げ出し自由落下で床に座ったのだった。飛びのいてかわすことは予想していただろうが、まさか位置はそのままに身長が座高に変わるとはさすがに思っていなかったに違いない。気づいても木剣は戻せなかった。
ヘルメットぎりぎりに通過する木剣を確認してから神足は剣先を南沢の喉に伸ばした。ふてぶてしいまでにゆったりした動き。
――乗っちゃった。まあ、そこらへんの罠なら噛み破るんだけど、あのオッチャンの相手はまだまだつらいわね。
「勝負あり!」