2003-10-03から1日間の記事一覧

殺してやる。そこまで考えて狩野謙(かのう けん)は愕然とした。自分のその危険な感情はどう考えてもこの空間にふさわしいものではなかったから。不自然なものだったから。どうしてそんな気分になった? 胸の奥にわだかまる土色の感情はそのままに自分の心…

メールでこの祭りの事を知り、夕べは一睡もせずにプレゼン資料を作った。それは本当は、今日一日かけて作ろうと思っていたものだ。なんとか完成し、頼み込んで1時間早くに出社してくれたアシスタントに業務指示を出してから、新幹線社内では他の案件への下調…

背が高い人のことをあまり羨ましがったことはなかった。三峰えりか(みつみね えりか)は身長144cmであり女性の平均身長ですら160cmに達しようという現代で、その意識は奇異と人には思われるだろうがそれが実感なのだから仕方がない。成長が止まった中学生か…

「こりゃ離婚だな、鯉沼くん。まさか鴨川会長を知らない嫁だなんて」 野村悠樹(のむら ゆうき)の言葉にまったくだと葛西紀彦(かさい のりひこ)がうなずく。いやいや、と鯉沼昭夫(こいぬま あきお)は慈愛のこもった目で妻を見つめた。知らなかったのは…

とことこ歩調を乱したものはもはや怒号とも呼べるサイズの音の塊であり、そして爆発的な大歓声だった。何事だよ、と鯉沼今日子(こいぬま きょうこ)は小走りに進む。ベスト8決定戦からは統一された会場、最前列から二段目に自分の席は確保されていた。そこ…

みんなの視線が痛い気がする。ここから出て行きたい。あとは自分のアナウンスだけ、という状態で皆が自分を待っている。わかっている。自分はこの紙を読み上げなければならない。自分に責任はない。でも、くそう、おのれ、あの男。 『次のカードに先立ちまし…

強運の戦士という呼称に誰よりも違和感を感じているのは本人である佐藤良輔(さとう りょうすけ)だった。違和感である。反感ではない。この街にいて運も実力のうちという言葉が事実であることを痛感していない人間はいないし、おそらくほとんどの人間は運と…

浮き立った気分で会場に戻るとちょうど部隊の戦士である佐藤良輔(さとう りょうすけ)が直立で精神を集中しているところだった。驚かせてやろう、と右拳を握りしめてその背中に向けて繰り出すと、まるで漫画のようなタイミングで佐藤は屈伸をした。くすくす…

この街に来た当初唯一の女戦士だった自分は、しばらくして最強の女戦士と呼ばれるようになった。少し時が経ち自分のあとに続く女戦士が幾人か現れだした頃のことだ。女であり(そして美貌であることも影響していると思う。思い出したくないが、自分が原因で…

試合場の一角に秋谷佳宗(あきたに よしむね)が姿を現した途端に女性の歓声が沸きあがった。それはどうも「ヨシムネ先生」と呼びかけているように聞こえ、笠置町翠(かさぎまち みどり)は疑問に思う。先刻から自分たちの一段下に座っている二人のうち、試…

で、十分に気合がはいっているけどどうなのよ勝算は? と落合香奈(おちあい かな)は女帝と呼ばれる女戦士に訊いた。真城雪(ましろ ゆき)は苦笑する。難しいわね。もともとナミーは器用でもずるがしこくもないし。あのオッチャンは最悪の相性じゃないかな…

大丈夫なのかな、と真城雪(ましろ ゆき)は心配に思う。あと5分後に自分の試合が迫っているというのに南沢浩太(みなみさわ こうた)の顔には緊張も気迫も見られない。まるでこの大会自体をどうでもよく感じているように見えた。そもそも参加したのだって津…