神足燎三

普通夢なんてものは起きて十秒も覚えていないもの(少なくとも俺はそうだ)だけど、その朝のいやーな汗にまみれた夢ははっきりと覚えている。第四層を上から見下ろしていた。葵らしき真っ青のツナギをつけた誰かが誰かを抱き起こし、覆い被さる青柳さんの黒…

津差龍一郎(つさ りゅういちろう)重体。今もまだ自分の部屋で寝ているはずだ。 第二期の有望な探索者が精鋭四部隊に出稽古に行くという企て、今日は津差さんが先発隊として出ることになった。出稽古先は魔女姫高田まり子(たかだ まりこ)さんの部隊で、こ…

 12:23

もともと地下の温度は低く零度に近い。それでも、のっぺらぼうと呼ばれるその化け物が現れるとさらに二〜三度涼しくなるような気がした。こいつは地上に持っていったらクーラー代わりにならんかしらね、といつもどおりにのんびりと考えて、高田まり子(たか…

 07:03

準備はよろしいですか? と高田まり子(たかだ まりこ)は仲間たちを見回した。うなずく顔ぶれは一様に緊張している。もし少しだけ事情を知っているものがいたら奇異に思ったことだろう。彼女が『魔女姫』という異名を奉られる探索者中最高の魔法使いであり…

 20:32

「あ、また転んだ」 北酒場には時ならぬ特設リングが出来上がっていた。その中央で行われている見世物を眺めながら落合香奈(おちあい かな)は呟いた。派手な音と一緒に歓声が沸きあがる。いま転んだのは高田まり子(たかだ まりこ)の部隊の前衛で、神足燎…

朝八時にフロントから部屋に電話をかけてもらったら、ひどい寝癖のまま降りてきた。手に下げているのは昨日洋服を買った紙袋だから、その寝癖のままで戻るつもりかと尋ねたらうなずいた。タクシーならいいでしょ? とのことだ。それはかまわないが、午後から…

ついに芸能界デビュー!(by笠置町葵)だそうだ。 午前中に軽く身体を動かしてモルグに戻ったら告知の張り紙が出ていた。本日一八時までに以下のものは事業団の事務所に出頭と書いてあった。こういった通知はたまにあって、大体が喧嘩したので叱られるとか落…

 20:13

探索者と仲良くするといいことがないと、織田彩(おりた あや)は過去の体験で知っている。人間はいつか死ぬもので、死んだらそれまでの付き合いの分だけ悲しくなってしまうもので、そして探索者は恐ろしく死亡率の高い職業だったからそれも当然のことだった…

打撃力★★★☆☆ 防御力★★★☆☆ 動作速度★★★☆☆ 入力への反射速度★★★★☆ 体力★★★☆☆ 気力★★★☆☆ 投げ技 柔道系 同タイミングで切り合うと必ず神足の打撃が有効になる ペテン1 「残念、実は当たってない」 ダメージを15%の割合で無効化 ペテン2 「隙あり!」 ゲージ…

首の稼動範囲ではかわせない。至近に迫った神足燎三(こうたり りょうぞう)の表情、実はまだ一本残っていた(いったい、どこに!)木刀を掲げたその腕の位置、距離とこれまでの経験から予測される木刀の速度をすべて考え合わせての国村光(くにむら ひかる…

お前ら、声がでかいぞ。神足燎三(こうたり りょうぞう)は背後から聞こえてきた会話に苦笑した。自分の位置では一言一句もらさず聞こえたその会話、自分の残弾数を正確に看破したその会話はもしかしたら向かいに立つ男にも届いたかもしれない。女帝との会話…

息を整えながら身体の様子を再確認しようとした。それを阻害するのは間断なく伝えられる右腿からの痛覚だった。貫かれたわけでもない切り裂かれたわけでもない単なる打撲が思考力を奪うほどの警鐘を鳴らし、ともすれば闘志すら削ろうとしていた。震える奥歯…

化け物め。 国村光(くにむら ひかる)の渾身の胴をやすやすとかわし反撃の小手を(かわされたものの)打ち込んでいてなお、神足燎三(こうたり りょうぞう)は背筋が冷えていくのを抑えられない。二発の木刀をかわしてのけるのは当然だとしても、倒立の姿勢…

はじめの声に腰をぐんと落とした。普段はやわらかい太ももが硬直し膨張するのが自分でもわかった。反応速度は今日いちばんだ、と自分の身体への満足感とともに国村光(くにむら ひかる)は視線を対戦相手に当てた。敵手である神足燎三(こうたり りょうぞう…

視線は向かいに立つ神足燎三(こうたり りょうぞう)にすえたまま、両腕を頭の上で組み右の脇を伸ばそうと肩を傾ける。自然に突き出された腰が何かに当たり、その何かは小さい悲鳴を発してどさりと何か大きなものが床に投げ出される音がした。国村光(くにむ…

マイクの声はまるでこれが拡声されていることを自覚していないかのように楽しげに会場の空気を震わせる。さて先ほどの試合を振り返って、と真城雪(ましろ ゆき)は隣に座る娘に水を向けた。いかがですか解説の笠置町さん 『見てるこっちまで痛かったとしか…

二人同時に縛るのは、それが第一期屈指の探索者になるとやっぱりダメか。そう心中で苦笑してから神足燎三(こうたり りょうぞう)は新たにやってきた寺島薫(てらしま かおる)の顔を見上げた。年齢は自分より一つ下だったろうか? この街では高年齢に位置す…

笠置町隆盛(かさぎまち たかもり)は真壁啓一(まかべ けいいち)を最後まで認めなかったな。神田絵美(かんだ えみ)がそのことを懐かしく思い出したのは、なぜだか目の前に寝転がる中年を眺めてだった。男は名を神足燎三(こうたり りょうぞう)といい、…

やっぱりこの舞台は自分にうってつけだった。相手が探索者屈指の食わせ物であり実力的にも最強レベルの探索者だとしても地の利が自分にある以上恐れる必要はない。壁を利用してどんなことをやろうとしていたのか知らない――おそらく、自分にしかわからない覗…

五度攻撃をしのいだ。それはもうしのいだ、と言っていいありさまだった。舞台を作ったのは自分が有利になろうと思ったからではない。そもそも神足燎三(こうたり りょうぞう)はこのトーナメントに優勝しようなどとは思っていなかった。特にチケットが欲しい…

橋本辰(はしもと たつ)ははじめ試合会場を間違えたのかと思った。訓練場教官としての日報作成のためにもらった時間は30分、まさかこれほどの土木工事が可能な時間だとは思わなかったからだ。これほどのことができるのは、部下を使った星野幸樹(ほしの こ…

いわゆる土俵際にあたる外周部分の土嚢は意識してしっかりと積むようにした。女帝真城雪(ましろ ゆき)が迷宮街に誇るその強靭な足腰で跳躍しても、足場となる土嚢が動いてしまうようではいけないからだ。密集しすぎと思える場所の土嚢を抱えては、攻撃(お…

不自然に倒れた娘が息を吹き返すのを確認し、真城雪(ましろ ゆき)は試合会場に戻った。あまり人のことばかりを気にしてもいられない。次は自分の試合であり、相手は自分と同格以上にいる戦士だった。ごめんよ、ごめんなさいねと声をかけながら土嚢のつまれ…

罠解除師である若林暁(わかばやし さとる)は――当然というべきなのだが――戦士たちの実力の差というものがわからない。この剣術トーナメント、自分の部隊の前衛は3人ともがベスト8に残っている。喜ぶべきその事態はしかし意外らしい。目の前の神足燎三(こう…

で、十分に気合がはいっているけどどうなのよ勝算は? と落合香奈(おちあい かな)は女帝と呼ばれる女戦士に訊いた。真城雪(ましろ ゆき)は苦笑する。難しいわね。もともとナミーは器用でもずるがしこくもないし。あのオッチャンは最悪の相性じゃないかな…