で、結局、と児島貴(こじま たかし)は二人はさんで隣りに座る男に顔を向けた。今、一体なにがどうなったんだ? 剣の折れた先がツナギにひっかかって首吊りになったのはわかったけど、それが勝因か?
「ちがいます」 真壁啓一(まかべ けいいち)が答えた。その前に葛西さんは津差さんの右肩直下の筋と首に刃を当ててます。津差さんだったら喉を掻っ切られても余力だけで人を投げ飛ばすくらいはできますが、葛西さんはきちんと受身を取ったからどう考えても葛西さんの勝ちですね。それにしても、葛西さんがすごいのは剣が折れたのに動じずに次の行動に移ったことです。やっぱり最精鋭の戦士は違いますね。
「いや、気づいてたよ」
じっと試合場を眺めていた笠置町翠(かさぎまち みどり)が口をはさんだ。葛西さんのショルダーアタックの直前、普通に剣と剣があたったんならありえない音がしてた。気づかなかった? 真壁が首を振る。その目には賞賛の色。
そのあと葛西さん、ふらふら歩きながら三度剣先を床にぶつけたでしょ。あそこで確認したんだよ。だから折れることを想定して踏み込んだんだし、折れた柄の方を津差さんの視線の高さまで放り投げてるでしょ。人間って、目の高さに何かが上がってきたら自然とそっちを見ちゃうもんだよ。そういうのも考えてるんだよ。
「なるほど」
真壁さんもよく見たけど、と徐々に誇らしげ憎らしげな表情になる。真壁さんもキャリア浅い割にはよく見たけど、それでも剣で私とどうこうなろうと思っちゃいけないな。真壁は苦笑した。いや別に翠にかなうとおもっていないけどね。そして、復活したね? という確認に翠はうなずいた。
「いいもの見せてもらった。燃えてきた」
良かった、と真壁は翠の頭をそっとわしづかみにした。そして一方に顔を捻じ曲げさせる。手の中の綺麗な形の頭蓋骨がびくりと震えた。彼女の視界の中央には何人かの人間が映っているはずだ。セーラー服を来て、足の上にダッフルコートをかけている彼女たちは次の試合に出る翠を期待をこめた視線で見つめていた。翠と視線があったことを知り、いっせいに手を振る。
「おもしろいなあ、翠はほんとうに」 真壁はしみじみと言った。
翠はからくり人形かなにかのようにぎこちなく手をふりかえした。その顔は再びこわばっている。