打ち身がひどく痛い。でも一番傷ついているのはプライドだった。今日は記念すべき日だ。一緒に迷宮探索をする仲間が二人できて、年下の女の子に叩きのめされたという。
今朝、迷宮探索者としてのパスが発行された。これを提示すれば北酒場の定食と、いま泊まっている男女共用の大部屋は無料で利用できる。最低限の生活は営めるということだ。しかし無料特典には期限があって、発行されてから一週間、その後は迷宮に潜ったら一週間更新らしい。ようするに自腹を切りたくなかったら一週間と空けずに地下に迷宮に下りろということらしかった。まあ自腹を切ってもそんなに負担ではないので、のんびり探すつもりで今日は戦士の訓練に参加することにした。そしてそこに笠置町翠(かさぎまち みどり)がいた。
初日の訓練を危なげなく突破していた双子の姉妹は強烈に印象に残っていたが、それだからこそ昨日の適性検査の場で姿が見えないことを不思議に思っていた。昨夜津差さんに紹介だけされて、帰ったのではないと知ってはいたが、それがこうして当然の顔をして戦士の訓練場にいるのは奇妙だ。そのことを質問すると彼女と妹の葵さんはもともと適性検査をパスしていたとのことだった。
詳しい話を訊く前に訓練が始まった。教官は橋本さんという筋骨隆々で角刈りの男性。30代半ばくらいだろうか。訓練場には30人くらいの人間がいるところを見るとすでに探索を開始している第一期の戦士たちもここで訓練しているのだろう。訓練といってもメニューがあるわけではなく、訓練場を碁盤状に区切って仕切られている正方形の一つを選んで素振りなり打ち合いなりめいめいが好きにしている。俺たちはといえば、午後いっぱい翠さんにいいようにあしらわれていた。彼女は強すぎた。津差さんの木剣はまるで小枝のように目に止まらなかったし、俺だってフットワークを使ってできるかぎり早く厳しい打ち込みをしたはずだった。しかし彼女はそれら全てが読めているようにかわし、そうかと思うと切っ先が俺たちの手首をはたいたり、喉もとに突きつけられたりした。最後は二人同時にかかっても一度も身体に当てることができずに三時間の訓練が終わった。ヘルメットを取った彼女の髪の毛が汗で濡れていたことで少しでも溜飲を下げなければならないくらいだった。
「二人ともスジはいいですね」
彼女はそう言って笑い、それでも俺はお眼鏡にかなったらしく、一緒に部隊を組まないかと申し出てきた。俺に拒否できるはずもなかった。双子の妹である葵さんもタカ派で魔法使いだというので、これで三人は確定したわけだ。罠解除師は小寺が成績がよかったらしいし、奴を含めれば四人かな。うん順調。
俺は別に男尊女卑というわけではない。相手が男だろうと女だろうと、ここまで子ども扱いされるとやり返したくなるのだ。明日の午前中は仲間探しで午後はまた翠さんと訓練の約束をしている(彼女は神戸大丸のバーゲンに行きたがっていたが)ので、明日こそはせめて一太刀なりと当ててやろうと思う。