橋本辰

今日はパトロールの日なので早めに書く。今日から津差さん部隊の佐藤良輔(さとう りょうすけ)さんと野沢康平(のざわ こうへい)さんも参加することになった。これで、第二期でパトロールに加わっている人間は八名になる。笠置町翠(かさぎまち みどり)、…

 09:02

ずらりと試験生が並んでいる。橋本辰(はしもと たつ)はごきりと首を鳴らした。『人類の剣』でありこの国でも十本指に入るだろう戦士であっても長時間の運転はこたえた。昨夜はぎりぎりまで名古屋にいて、妻と子がすうすう寝息をたてる中、ガムをかみながら…

昨日は夕方からずっと雨でどうなることかと思ったけれど、今日はいい天気! こんなことなら黒田さんたちとご来迎を拝みに行けばよかった。それでも木賃宿の屋上から眺める朝もやの京都市街は非常にきれいだった。洗濯物も乾きそうだし。 本日もまた示威部隊…

 22:34

ふううううううと息を吐く声が聞こえる。なんとなしに妻のその声を耳に留めながら、笠置町隆盛(かさぎまち たかもり)は目の前の男のコップに焼酎を注いだ。彼は奥島幸一(おくしま こういち)という名で、笠置町夫婦と同じく政府から月10万円の助成金とと…

 20:32

「あ、また転んだ」 北酒場には時ならぬ特設リングが出来上がっていた。その中央で行われている見世物を眺めながら落合香奈(おちあい かな)は呟いた。派手な音と一緒に歓声が沸きあがる。いま転んだのは高田まり子(たかだ まりこ)の部隊の前衛で、神足燎…

第三層への初挑戦は無事に終了した。第三層では最強の怪物である緑龍に対しても無傷で勝利した。本当に強いなうちの部隊というか笠置町葵は。他の五人が束になっても彼女一人にかなわない自信がある。 それでも強い化け物の代名詞とされている緑龍を幸運とは…

大海を知った一日。今日は教官の橋本さんに稽古をつけてもらった。戦士としての真壁啓一にはこれといった特徴はないけれど、バランスよく上達していると思う。最近では第一期の戦士の中でも第二層より上で停滞している人たちとはいい勝負ができるようになっ…

午前中は訓練場で訓練をして過ごした。最近は地上では打ち合いの時間を減らすようにしている。平らな床の上で動くことに慣れてもあまり意味がないと思うようになったことと、とにかく剣筋を精確に、太刀行きを速くする練習が重要だと思うようになったからだ…

 10:31

探索者の戦士たちも第四層に降りるあたりになると、各人の個性や優劣が出はじめると彼らは言っている。いわく、星野幸樹(ほしの こうき)は突き技に長け、真城雪(ましろ ゆき)は鉄剣の重量と遠心力を利用する跳躍戦法のが巧みで、野村悠樹(のむら ゆうき…

 16:20

四時を過ぎると今日の探索を終えた連中が使用した武器防具が運び込まれてくる。現場のチーフである片岡宗一(かたおか そういち)にとっては一番あわただしい時間帯だった。ひとつずつの状態を見極め、誰なら任せられるかを考え、てきぱきと割り振っていく。…

 13:56

かぶとの類を身につけている相手には決して大上段で切りかかってはいけない。かぶとは衝撃を受けとめるためではなく流すために作られている防具であり、振りおろした剣が逸らされたら一秒は無防備になってしまうから。訓練場の橋本辰(はしもと たつ)に何度…

第二層で地図ができている個所をすべて歩き終わった。曲がりくねった洞窟だから正確な大きさはわからないけど、歩いている時間だけで五時間はあったと思う。体感的に時速四キロくらいの速度で進んでいるから、ゴツゴツした洞窟内を警戒しながら二〇キロは歩…

収入は増えているのに支出も増えている・・・まあ、貯めこんでも墓場までは持っていけない(冗談抜きで)ので、必要な分は出し惜しみせず使うとしよう。日本経済にも貢献しないとな。実際のところ祇園では売上が上がっているらしい。 今日は目新しい訓練をは…

打ち身がひどく痛い。でも一番傷ついているのはプライドだった。今日は記念すべき日だ。一緒に迷宮探索をする仲間が二人できて、年下の女の子に叩きのめされたという。 今朝、迷宮探索者としてのパスが発行された。これを提示すれば北酒場の定食と、いま泊ま…

はじめの声に腰をぐんと落とした。普段はやわらかい太ももが硬直し膨張するのが自分でもわかった。反応速度は今日いちばんだ、と自分の身体への満足感とともに国村光(くにむら ひかる)は視線を対戦相手に当てた。敵手である神足燎三(こうたり りょうぞう…

しんと静まり返る中を橋本辰(はしもと たつ)は大の字になっている若者のもとに歩いていった。序盤の試合は知らないが彼が審判をするようになってから初めて明らかにそれとわかる怪我だったからその沈黙も仕方がないのかもしれない。しかしそれを圧して空気…

橋本辰(はしもと たつ)ははじめ試合会場を間違えたのかと思った。訓練場教官としての日報作成のためにもらった時間は30分、まさかこれほどの土木工事が可能な時間だとは思わなかったからだ。これほどのことができるのは、部下を使った星野幸樹(ほしの こ…

息子の部屋にあるどんな格闘漫画でもサウスポー相手は苦しむものだったが、訓練場でしばしば打ち合っていた葛西紀彦(かさい のりひこ)にはそのハンディはないようだった。裂帛の気合を篭めた切込みが矢継ぎ早に繰り出され、どちらかといえば押されているの…