早くから大変ですね! と言われた。小林さんにだ。なんだかすごく元気で快活だ。宝くじでも当たったのかな。
今日も今日とて第二層の探索を続けている。今日の俺の目標は「目指せ青柳誠真(あおやぎ せいしん)」だった。以前書いたけど、青柳さんの強さというのはちょっと理解できないものだった。動きも(俺や津差さんや翠に比べたら)遅いほうだし、訓練場ではそれほど苦戦しない。それなのに、俺たちが切りかかってもぼんやりとしか消滅させられないニコチンという煙状の化け物を、一振りで吹き飛ばしたりしている。その不可思議な強さの原因がわかったようなのだ。
エーテルを無意識に操作して、剣やツナギをコーティングしているとのこと。それによって、越谷さんいわく「青柳さんがその種の才能を持っているとするなら、真壁くんとの差は大きいよ。金属バットとプラスチックバットくらいに」ほどの効果を出しているらしい。越谷さんも真剣な顔だから本当のことだろうか。
階段を下りながら、そのあたりのことを翠と青柳さんと話していた。「あー、確かに訓練場で木の剣を使って殴る感触とはぜんぜん違うな。でもそれは木と鉄の違いかと思っていたけど」たしかにその二つは違うけど、それでもプラスチックバットと金属バットほどの差はない。何かあるのだ。
ということで、「いつもどんなイメージを持って戦っているんですか?」と尋ねてみる。「うん? 晩飯のこととか早苗(青柳さんの恋人)のこととか車のこととかかな」と人を馬鹿にしたような答えが返ってきたけど、とりあえずは俺も晩御飯のことを考えて戦ってみようと思い立った。
そのせいではないだろうけど、今日は結構苦戦した。第二層から二本足の人間っぽい化け物が多数出てくるけど、その中でカンフーと呼ばれているものがいる。大概は武器を持っている化け物たちにはめずらしく素手で、殴ったり蹴ったり爪で切ったりして襲い掛かってくるものだ。驚いたことに、その手刀でツナギが切られることも多い。こいつらは五〜六体で群れている上によく動くので全部を葵の魔法に任せることもできない。切りあうということは、相手の攻撃が読めるようになっていても緊張するものだ。覚悟を決めて降りているわけだけど連戦だとさすがに疲れるのだった。
地上に戻ってすぐに北酒場でかけそばを食べた。地下にいるあいだずっと食べたいと思っていたから。目指せ青柳誠真の目標は、食べ物のイメージトレーニングで達成できたか? という疑問をもし持ったのなら地上に帰る階段での青柳さんの言葉をもって回答に替えたい。
「ほんとに食い物のことなんか考えて戦ってるわけないだろ。アホか」