11:10

奇妙に聞こえるかもしれないが、連戦連勝とは強さを意味しない。もちろんほとんどの場合それを成し遂げるには秀でた能力が必要だったが、あるいは強運によって対戦相手に恵まれただけ、ということも考えられるからには強さを保証してはくれないのだ。本当の強さは負けてなお立ち上がるその時に見られる。困難を受け止めること、被害を最小に抑えること、次からは未然に防ぐこと。それこそが強さなのだった。
迷宮街の探索者はほぼ例外なく第一層で毒気の洗礼を受けていた。新参の罠解除師ではすべてを無事に解除することは不可能だったし、第一層の罠の大半は毒気だったからだ。そのことによって探索者は毒気に冒された場合の判別法、対応法その他を学んで克服していく。そうして、化け物が毒気を使うようになる第二層に降り立つ頃にはある程度の心構えができているのが常だった。
連戦連勝は強さを意味しない。鈴木秀美(すずき ひでみ)という際立った罠解除師が第一層の罠をすべて危なげなく解除した華々しい事績は、その仲間たちから毒気に対する対処法を学ぶ機会を奪い去った。
恩田信吾は異常に冷えてゆく体温の中、先ほどのタランチュラが飛び乗った瞬間その爪か牙か針か、痛みすら感じなかった何かが自分の身体に毒気を注ぎ込んでいたことを理解した。
助けを求める声は、すぐ隣りにいる小野寺正(おのでら ただし)にも届かなかった。
寒い。それが最後の思考になった。