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私もパレードいいですか? という娘の顔を見て津差龍一郎(つさ りゅういちろう)は怪訝に思った。そこにいたのは笠置町姉妹の妹だったからだ。色恋は不器用という印象の姉妹だったけれど、妹の葵はなんとか彼らの部隊の罠解除師と関係を築きつつあると思い込んでいたからだ。どうしてまたクリスマスイブに「ノーモアクリスマス!」のプラカードを持ったパレードに加わりたがるのだろう? 津差の肩の上に座っていた星野由真(ほしの ゆま)がその疑問を端的に口に出した。
「葵もカレシいないんだぁ! かっこわるぅ!」
言葉は鞭のように葵の身体をうち、屈託ない娘の言葉に津差と葵は顔を見合わせて苦笑した。
「そういう由真はどうなんだ? ん? あたしに偉そうなこというわりにはなんでこんなとこにいるんだ?」
自衛隊員を父親に持つ娘はつんと上を向いた。父親の星野幸樹(ほしの こうき)は特に美男というわけではなかったが、この娘は十分可愛い部類に入るだろう。まあ、まだ小学生ならカレシもなにもあったものではなかったが。
「由真くらいになるとね、ボーイフレンドが多いからこういう大事な日は公平に誰とも遊ばないの!」
「――という漫画を多分昨日あたり読んだんだろうな」
津差のまじめくさった言葉に葵は吹き出し、由真はその天然パーマの頭を何度も叩いた。反応がないと見るや両手で目をふさぐ。しかし津差は危なげなく歩いていた。そして常盤くんとは遊びに行かないのか? と尋ねる。葵は唇をとがらせた。
「東京から急用が美女の姿でやってきました」
相変わらず両目をふさがれたまま津差は彼女を見下ろした。目をふさいでもうろたえている様子のない男を、肩の上の小学生が怪訝な顔で覗き込んでいる。
「おやおや、よりによってこんな日に。でもそれは怒っていいと思うぞ。約束をやぶられたわけだし」
そうでしょうかと心配そうな顔。ようやく回復した視界の中央には不安げな娘がいた。別につきあってるわけでもないし、きれいなひとだったし・・・。
恋愛沙汰に関して正解を出せると思えるどんな自信も津差龍一郎の中にはない。だからそのままにしておいた。まだ若いのだし、こうやっていろいろと学ぶのだろう。
でもまあ、それでも常盤にはヤキを入れておくことにしよう。肩の上の娘とやりあう笑顔を眺めながらそう思った。