『ノーモアクリスマス!』 パレードは首謀者の真城さんが突然「いやホントごめん! マジで! あとよろしく!」と言いながら裏切ったものの、参加人数24人と犬3匹という立派な成果をあげた。馬鹿ばっかりだ、この街。先頭は真城さんに選んでもらった高級服に身を包んでかっちり化粧をした翠。馬子にも衣装と口に出したら予想していたとしか思えない速度で右ストレートが飛んできたところからしても、みんなに同じことを言われたのだろうな。それほど綺麗だった。おかげでモテない奴らの淋しいデモ行進にならずに済んだかな。
パレードは迷宮街南部の野原でスタートして大通りを中心に練り歩くような感じだった。途中買取商社の前で立ち止まり、探索者の待遇改善であるとか怖い顔のくせに美人の奥さんはいけないとかシュプレヒコールを行っていた。恩田くん探索のときに手配をしてもらって以来、越谷さんたちは後藤さんと親しくしているらしい。俺は見たことがないが、翠によると「美女と魔獣」というくらい奥様はきれいな人なのだということ。後藤さんはそりゃもう大変な顔の方(この人と二人で飲んでぽつりと「やっぱり男は顔で決まるな」と言われたら俺には慰めが思いつかない)なので、そんなきれいな奥さんはけしからんということで俺たちも「誘拐は犯罪です」とか「ブサイクの誇りを忘れるな」だの叫んでいたら、どたばたと後藤さんが降りてきた。椅子の敷物を頭にかぶりモップ構えて。馬鹿ばっかりだ、この街。
パレードは北酒場で解散し、とはいっても解散で帰ったのは犬と飼い主(さすがに入場不可)だけでみんなで食事をした。俺は翠と落合香奈(おちあい かな)さん、葛西紀彦(かさい のりひこ)さんとすぐさま飲みに。今でこそこんなパレードに加わっているけど、たまたまだよ! 普段はきちんと相手がいるんだからね! という二人の過去の話を聞かせてもらった。
ただ別れに死別が入ってくるあたりが、なんともこの街らしくやりきれない。
さて、遊んでばかりだと思われるのもしゃくなので本日の成果も書いておこう。昨日の昼過ぎには京都に戻ってきていた二人の準備も万全ということで、第三層への二度目のアタックを行い無事に終了した。以前先輩たちに知らされていたように、この層はスピードが速い。怪物たちがねぐらにできるような物陰がそこかしこにあるために気を抜ける瞬間が訪れない。ここではっきりと現れてきたのは笠置町姉妹と俺たちとの差だった。能力でまだまだ及ばないのはもちろんだけど、あの二人には基本的に『常在戦場』の心構えができているのだと思う。緊張することなく周囲を警戒するという根本的な姿勢、それができているから歩いていても消耗しないが、俺たちはいわばおびえながら過ごすことになる。それは身体の疲れを産む。思えば日曜日の第一回のアタックは無我夢中だったし、何より戦闘と戦闘の間隔が短かった。だから集中力が切れる前にあらかじめ決めていた目標の戦闘回数をこなすことができたのだろう。
今回は間隔が長かった(広かった? どっちが正しい日本語かな?)ために、戦っていない時間でも消耗してしまった。リーダーの翠はそれに気づかず、俺はスピードに慣れていたはずのいなばにわき腹を大きく切られる羽目になった。すぐにふさいでもらったけど。地上に戻ってのミーティングでそのあたりの問題点を話し合ったが、笠置町姉妹にしても育ってくる過程で身についた心構えを伝授できるはずもなく、このあたりは先輩たちに聞くしかないだろう。でも慣れるしかないのかもしれない。
しばらくは第三層でも戦闘を少なめにと話を決めて児島さんと常盤くんに謝ったら、彼らはもうお金には困っていないのだということだった。治療費を払う相手が死んでしまったし、であれば賠償金を肩代わりする義理はないということ。葵がこの街を出て行くのかと心配そうに訊いたが二人ともまだそれは考えていないようだった。何をするにせよ、まとまった金は必要だと言う。その通りだ。
何をするにせよ、という言葉ではっと我に返った。俺はここに何をするために来たのだろう? 何を達成したらここを出て行くのだろう? 甘えを捨てて強くなりたいという思いをもってここに来たけど、わかったのは殺し合いをしても望むような強さは得られないということだった。大学に入りなおすか、就職するか、あるいはほかの事をするか――俺は今後何をしたくて、そのためにこの街ではなにができるんだろう?
そういえば、第一期の人たちにそういうことは訊けない。彼らには他に行く場所がないように見える。神田さんの言葉を思い出した。何かに縛られてしまい、きっかけがないと出て行けないのだと。そうなるまでにここを出ないといけない。迷宮街以後の人生、そろそろ真剣に考えよう。