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真壁啓一(まかべ けいいち)が怪訝そうに声を上げた。
「あれ? 真城さんのヒョウ柄って地下用ですよね? カラビナついてるし」
両手をあけながら大量の食料や救急用品などを持ち歩かなければならない地下行動時に使用するツナギには、円形のカラビナと呼ばれる留め具がたくさんついている。それはもちろん地上の訓練では必要のないもので、現に画面の中で打ち合っている笠置町翠(かさぎまち みどり)のツナギにはついていなかった。剣先が引っかかったら危ないそれをわざわざ身に着けている理由はといえば、
「いやまあテレビですからね」
葛西紀彦(かさい のりひこ)が言ったそのことにつきるだろう。真城雪(ましろ ゆき)とはそういった目立ちたがりの行動が実に似合い、すんなりと受け止められる女性だった。
「こう見ると真城さんって隙でかくないすか? 俺どうして訓練で勝てないんだろう」
画面の中で繰り広げられる剣技の応酬を見つめながら進藤典範(しんどう のりひろ)は腑に落ちないようにつぶやいた。それにはソファを占めている越谷健二(こしがや けんじ)が答える。まあ相手が翠ちゃんだからだろ。あれって結構いやーな位置に剣先置いてるぞ。第一期の戦士たちは一様に、二期の戦士である津差龍一郎(つさ りゅういちろう)と真壁もうなずいているのを見て、進藤はかすかに焦りのようなものを感じた。
「そういうもんですか・・・」
「あれ? 笠置町さん2ちゃんで名前知られてる」
画面を覗き込んでいる葛西が声を上げた。
「まじで? ・・・あ、ほんとだ。『どっちかが笠置町翠のヨカーン』って、なに? 翠ちゃん有名人ですか? 親父さんの関係かな?」
進藤と真壁はそっと視線を見交わした。どちらも疑問を晴らそうとはしない。