出稽古シリーズ第二弾は笠置町翠(かさぎまち みどり)。感想は
「やっぱり他の仲間が頼れると楽だね!」
くっそー菓子折りか? 菓子折りでも持っていけばいいのか?
昼前からは雨が降ったけれどどんよりと曇りの朝。いつもどおりにジョギングに出たら、久しぶりに落合さんと一緒になった。話題は自然と境周(さかい あまね)さんの話になる。境さんは第一期だったけど、どうやって日々過ごしているのかあまり知らなかったのだという。確かに迷宮街で見かけるのは朝のジョギングくらいだったような気がする。朝六時に走っているのだからこの街に住んでいたんだろうけど・・・。私生活を良く知らないという点では同じ部隊の黒田聡(くろだ さとし)さんでも俺たちと同レベルらしく、緊急時連絡先に電話をしてみたら現在使われていなかったそうだ。俺たちはつとめてお互いの事情を探ろうとしない。それは悲しみを深くしないために自然と身についた知恵だけど、悲しみが深くならない分だけ淋しい。どっちがいいのかはわからない。
雨が降り出したので屋根の下に移って津差さんと少し打ち合った。津差さんは昨日の寝込み方が嘘のように完全復活しているようだった。寝込む前より調子がいいとは本人の談で、嘉穂さん配合の薬を飲んだその後三時間、身体が熱くて熱くて仕方がなかったのだがシーツが台無しになるほどの汗をかいたら却って体調が良くなったとか。市販か? と問われたので嘉穂さん特製と教えておいた。
そういえば、津差さんが以前探していたのも中村さんだけど、まさか嘉穂さんじゃないだろうな。あれほど個性のある人物なら津差さんが知らないはずはないだろうし。
それにしてもあれだ。薬飲んで「久しぶりにヘソまで着くかと思った」って言ってたけど、久しぶりにってのは冗談だよな。ヘソなんて俺今までついたことないよ。ちょっと信じられないな。
そのまま移動して詰め所で翠を出迎え、北酒場に再集合して第四層を生き抜くためのハウツーを教えてもらった。部隊全体のあり方は、他に倉持ひばり(くらもち ひばり)さんと久米篤(くめ あつし)さんが出稽古を終えてから話し合うけれど、それ以前に俺が第四層から生還するためにできる準備はすべてする必要がある。二人の話を総括すると、怪物自体は第三層とそれほど変わるわけではない。しかし壁面が水にぬれてまるで秋芳洞のような雰囲気になるために音の反響と光の反射が強いから、その点はある程度予期しておいた方がいいとのこと。そして、戦士の分際で怪物の接近を感じ取ろうとは思うなとも言われた。壁面の問題もあるし敵のレベルが総じて高いこともあるしで、俺たちが気を配るよりはそれ専門の訓練を受けている罠解除師に任せたほうが安全だという。任せきり、罠解除師が接近を告げない限りは緊張も筋肉も弛緩させておけとのことだった。罠解除師が接近を感じ取れなかったら死ねばいい。そういう覚悟が精鋭四部隊にはあるらしい。つまり、それだけの信頼を部隊内で築けなければ降りてはいけないのだ。
夕食は家で食べるという(笠パパが来ているらしい。冗談で誘われて正直そそられたけど遠慮しておいた)翠と別れて津差さんと飲み。その場に魔女姫と縁川さつき(よりかわ さつき)さんがやってきて津差さんをスカウトしていた。冗談で「俺は誘わないんですか」と言ったら「あなたたちの部隊はきちんと調和しているからね」とやんわりと断られた。大人だ。津差さんは迷っているようだった。先に進むためにはいい話だとしても、古くからの仲間に愛着もあるのだろう。
今日はモルグにずっと携帯をおきっぱなしだった。由加里さんごめんなさい。もう遅いから電話しないけど無事で元気にやってます。