13:36

先陣を切って走り出した背中を追った。あくまで冷静に、いい奴らだな、と気分が昂揚した。こいつら――大きな男は違うらしいが――だったら可愛い従妹たち(意識の中では妹だったが)を任せて安心だ。激戦を数秒後に控えてなおその心は落ち着いている。眼前にいるどの生き物も、何十匹集まっても剣士としての自分には遠く及ばないことを知っているから。まあ、そこの大男だとちょっときつく、従妹の恋人が戦うのは無茶ってものだけど。その背筋がぞくりと逆立った。自然と前方中央に視線が吸い寄せられた。そこに何かいやな予感がわだかまっている。
あー、けっこうしゃれにならない術使うつもりだあいつ。とりあえず封じるか。
走りながらイメージの集中を開始しようとした矢先、その嫌な予感が掻き消えた。後ろで小さく喜びの波動。部隊の治療術師が自分より早く気づき、先手を打って封じたらしい。本当にいい奴らだな。うん。一人として死なせるのは惜しいな。
よし、俺もとっておきを使おう。
なるべくなら使うな、術に頼れば剣筋が乱れると師匠に厳命されていた治療術の一つ。誰しもが持っている回復する力を裏返し活力そのものから奪ってしまう殺戮のための術。あくまで剣士たることに誇りを持っていたから自らにも使うことを禁じていたが、こいつらを活かすことに比べればそんな自分ルールは馬鹿げたことに思えた。
一瞬だけイメージを集中させ、次の瞬間には解き放った。
目に見えるどんな光も生まず耳に聞こえるどんな音も震わさず、ただ死を象徴する力が前方広範囲に広がていく。化け物たちが全て倒れ伏したのを確認して術を切断した。