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もとの皮膚の色がどうだったのかわからない。しかし六人で見下ろすその化け物の肌は、明らかに不自然な紫色をしていた。禁術の産んだ死の不健康な何かに満たされたその身体はしかしまだ息があり、ずるずると奥へと這っていく。
「なんだかかわいそう」
笠置町葵(かさぎまち あおい)の呟きに真壁啓一(まかべ けいいち)は頷いた。ああ、かわいそうだ。でもこいつらは話が通じないし、俺たちの経済的な事情とは共存できない。そして俺たちより弱い。だからこいつらは死ぬんだ。葵はうなずいた。それだけのことだ。必死に這いずるその姿は、勝者のおごりどころかいつか自分も、そして人間自体がこのようになることを予感させた。かわいそう、という彼女の言葉は目の前で逃れようと這う生き物ではなく、ついに闘いから逃れられない生物全てに向けられたものかもしれない。
唯一の術者だったそれは壁面のくぼみに入り込んだ。そこから濃密なエーテルが流れてくることは戦士である真壁にもわかった。そしてもう一つ。何か、白い岩のかけらだろうか? それを抱え込んだ怪物の身体の不自然な紫が薄れていく。
「真壁さん! こいつ回復――」
言葉よりも早く真壁の剣先がその首筋を貫いていた。最後の化け物は絶命した。
「これが鍵でしょう。普段は争ってる化け物たちがコミュニティ同士で同盟を組んで、非戦闘員まで投入して奪還したかったもの」
乱暴に死体を蹴ってどかしたそこにあるのは二つの拳大の石だった。片方は熊で、片方は蛙だろうか? そのくぼみの前に並べられた獣の皮、金属片などを見てもわかるように、それは何か地下の化け物たちにとって宗教的な意味を持つのだろう。共通で管理すべき聖なる存在。
これを奴らのところに投げ込みましょう。うまくいったらコミュニティ同士で奪い合いをしてくれるでしょう。うまくいかなくても、どこかゴンドラから離れたところ、俺たちの手の届かないところで再び祀ってもらえれば、とりあえず上下動は邪魔されずに済みます。最悪のケースだとこの回復機能でさらにきつい闘いになるかもしれませんが――俺は返したい。損得じゃなくて、奴らがここまで必死になって守るほど大切なものだから。
反論はない。真壁はツナギのポケットにそれぞれその石を収めた。
じゃあ戻りましょう。走れますか? 全員が頼もしい頷きを返した。